259 価値がある

向井輝は薬の袋を棚に掛けながら、心配そうに言った。「大丈夫?疲れたら無理しないで。あなたの体も和利くんの体も大切だから。強がらないで。和利くんが目を覚ましたら、きっと心配するわ。分かる?和利くん、本当にあなたのことが大好きなのよ!」

二見奈津子は顔を上げて、向井輝を見つめた。「みんな、気付いていたの?」

向井輝は薬の袋を掛け終わり、静かに頷いた。「奈津子さん、和利くんはあなたを愛しているわ。あなたを見る目が違うの。あなたがいれば、和利くんの目には他の人が入らないわ。いつも無意識にあなたを見ているの。あなたを待っているのよ。あなたも彼を愛してくれることを」

二見奈津子は鼻が痛くなった。どうして自分だけがこんなに鈍感だったのだろう?

向井輝は身を屈めて、二見奈津子の足の上に毛布を掛け、優しく言った。「奈津子さん、価値のない宝は求めやすいけれど、誠実な恋人を見つけるのは難しいわ。和利くんは、あなたが愛するに値する人よ」

二見奈津子は静かに頷いた。

看護師が彼女に防護服を着せ、集中治療室に押して入った。

向井輝は隔離窓の前に立って見ていると、知らぬ間に涙が流れ落ちていた。

神様は愛し合う者たちを平穏に過ごさせようとはせず、いつも様々な試練を与えるのだ。

肩に手が置かれ、彼女は振り返ることなく佐々木光の逞しい胸に寄りかかった。

長谷川透は佐々木光の傍らに立ち、和利くんのベッドサイドにいる二見奈津子を見て、安堵のため息をついた。「和利くんは奈津子さんの声を聞けば、目を覚ますと思うよ。愛の力は侮れないからね」

佐々木光は振り返って彼を白い目で見た。「独身のお前が、そんな悟りを開いているとは思わなかったぞ」

長谷川透は表情を変えなかった。彼らとは子供の頃からぶつかり合ってきたので、顔の皮は木の皮のように厚くなっていた。

向井輝は眉をひそめて尋ねた。「一体誰なの?警察は捕まえたの?事情は分かったの?」

佐々木光は長谷川透を見た。

長谷川透が説明した。「分かりました。追跡していたのはパパラッチで、衝突したのは数人の不良でした。飲酒運転で、事実を隠すために二人を人気のない場所に遺棄したんです。酔いが覚めて怖くなって、逃げ出したんです」

向井輝は愕然とした。「これは、あまりにも荒唐無稽じゃない?」