数人が一晩中眠らず、集中治療室の外で待機し、時間が来て防護服に着替えて中に入れるのを待っていた。
突然、井上邦夫が大股で歩いてくるのが見えた。彼は大きな赤いバラの花束を抱えていた。
二見奈津子たちは訳も分からず彼を見つめていた。
彼は昨日と同じスーツを着たままで、顔にはくすんだ無精ひげが生えていた。
「藤原美月はどうだ?」彼が口を開くと、明らかに声が嗄れていた。
佐々木和利は医師の診断を繰り返して伝えた。
井上邦夫の表情が明らかに和らいだ。
彼は二見奈津子を見つめ、懇願するような声で言った。「先に入って彼女に会わせてもらえないか?プロポーズしたいんだ。」
二見奈津子は彼を見つめ、複雑な思いに駆られた。彼が戻ってきてくれたことに感動しつつも、また去ってしまうのではないかと恐れ、彼が藤原美月の慰めになることを願いながらも、彼女を傷つけることを恐れていた。
「集中治療室には生花は持ち込めないわ」二見奈津子は顔をそむけ、そっと涙を拭った。
「これは生花じゃない。造花だよ。一輪一輪、僕が作ったんだ。プロポーズには指輪の他に花も必要だろう!」井上邦夫は静かに言った。
みんなはようやく目を凝らして見ると、確かに井上邦夫が持っている赤いバラは絹で作られており、まるで本物のように生き生きとしていた。
井上邦夫は手のひらの指輪ケースを見つめながら、静かに言った。「本当は、君たちの怪我が治ったら、盛大なプロポーズの儀式を用意して、証人になってもらおうと思っていたんだ。ずっとプロポーズしたかった。もし早くしていれば、彼女は今、僕の婚約者になっていて、誰も彼女を傷つけることはできなかったのに。」
二見奈津子は涙が止まらなかった。
看護師が出てきて尋ねた。「誰が先に入りますか?」
二見奈津子は震える声で言った。「彼を先に入れてあげて。晴子さんとゆっくり過ごさせてあげましょう。」
井上邦夫は喜びに満ちた表情で、二見奈津子に深々と一礼した。「ありがとう!ありがとう、二見奈津子!」
井上邦夫が入ると、二見奈津子は顔を覆って泣いた。「もし晴子さんを裏切ったら、殺してやる!」
佐々木和利は二見奈津子の肩に手を置き、軽くたたきながら、心の中で友のために深いため息をついた。