「止められるとでも?止めたところで、あの娘を見捨てるのか?」井上和敏は冷静に尋ねた。
「絶対に見捨てない!」井上邦夫は断固として答えた。
「もう決めたんだ。反対するなら家出する。藤原美月を嫌うなら、僕は彼女と一緒に出て行く!」井上邦夫は計画を一気に話した。
井上和敏は目を見開いた。「家出だと?井上邦夫、やってみろ。足を折るぞ!」
井上邦夫は本能的に一歩後ずさりし、無意識に自分の足に触れた。「だったら、母さんと二人で僕たちを引き離さないで!」
井上和敏は呆れて笑った。「母さんが鈴木家のおばさんにどう答えたか知りたくないか?」
井上邦夫は首を振った。
「母さんは、お前の目を信じると言った。お前はもう大人だし、良し悪しの判断はつくだろうって。鈴木家のおばさんは不機嫌そうに帰っていったよ」井上和敏は淡々と言った。
井上邦夫の目は輝き、にやにやと笑った。「母さんに感謝しに行ってくる!」
井上和敏は水を差した。「調子に乗るな。母さんと私が反対しないからといって、お前たち二人の前途は長く、困難も多いぞ」
井上邦夫は力強く頷いた。心の中で、兄さんが止めなければ、他の人なんて気にしない!と思った。
「井上邦夫!」井上和敏は階段を上る弟を呼び止めた。
「兄さん!」井上邦夫は元気よく応え、振り返ると、顔は陽光のように輝いていた。
井上和敏はゆっくりと話し始めた。「今日小さな会議があって、各部門の予算決算を見たんだが、いくつかの部門がデータで私を誤魔化していることに気付いた」
井上邦夫は兄を見つめ、続きを聞こうと集中した。
井上和敏はカフスを整えながら、のんびりと言った。「年末だし、怒鳴りたくない。お前が解決してくれ」
「兄さん——」井上邦夫は足がくだけ、階段に座り込んでしまった。
井上和敏は口角を少し上げた。「彼女が目を覚ました時、お前にはそれなりの肩書きが必要だろう?これを片付けたら、来年は取締役会に入れてやる」
井上和敏はポケットに手を入れ、颯爽と立ち去った。
井上邦夫は神々しい兄を見つめ、喉に詰まった悲鳴を飲み込んだ。