井上和敏は興奮している弟を見つめながら、心に感慨が湧いてきた。井上邦夫は本当に大人になったのだ。
「その藤原美月は、以前関口孝志の恋人だったの?」井上和敏も率直に尋ねた。
井上邦夫は口を開きかけたが、最後には不本意ながら頷いた。「はい。」
井上和敏は淡々と言った。「お前と関口は兄弟だろう。」
井上邦夫は不本意そうに頷いた。「それがどうした?関口と藤原が別れる前、俺たちは彼が隠していた人が藤原だとは全く知らなかった。彼は彼女を愛していなかった!彼女の青春を奪っただけだ!」
「他人の感情を軽々しく評価するな。お前は当事者じゃない。評価する資格はない。自分のことだけを話せ。」井上和敏は冷たく弟に注意した。
井上邦夫は口を閉ざした。彼はすでに興奮状態から冷静さを取り戻していた。
彼は深く息を吸い込んだ。「わかった!兄さん、僕は一人の女の子を好きになった。彼女の名前は藤原美月。僕が追いかけた人だ。やっと彼女も僕に心を寄せてくれたと思ったら、彼女は交通事故に遭って、今も集中治療室にいる。」
「医者によると、彼女がいつ目覚めるかはまだわからないそうだ。家族が頻繁に話しかけることで、早く目覚める可能性があるらしい。以前、佐々木和利が昏睡状態の時も、二見奈津子が彼の耳元で泣き続けて、目を覚ましたんだ。」
「お前も彼女を泣き起こすつもりか?」井上和敏は決意に満ちた弟を見つめた。
「僕は——」井上邦夫は言葉に詰まり、呆然とした。兄さんは自分をからかっているのだろうか?
「兄さん、僕は藤原が目覚めたら彼女と結婚したいんです。もう婚約指輪を彼女の指にはめました!」井上邦夫は兄が自分を困らせているわけではないと感じ、大胆に自分の考えを打ち明けた。
井上和敏は彼を睨みつけた。「彼女の指にはめた?彼女が同意したということか?」
井上邦夫は頷いた。「佐々木と二見が証人です!兄さん、藤原は目覚めたら必ず同意してくれます!」
井上邦夫は自信に満ちていた。
井上和敏は頷いた。「つまり、鈴木家の母が藤原を非難した時、お前は公に藤原が自分の婚約者だと宣言し、お前たちの恋愛話を世間に公表したということか?」
「はい!」井上邦夫は堂々と認めた。
「橋本に頼んで書いてもらったんです!」井上邦夫はこの行動を誇りに思っているようだった。