320 自薦

佐々木理恵は思わず笑い出した。「道川さんが、あなたの唇は蜂に刺されたみたいだって言うのも分かるわ」

橋本拓海は顔を曇らせた。「蜂に刺された?それはどういう形容?あの小さなライオンがあんなに繊細な文章を書けるのに、なんでこんなに空気が読めない言い方するの?」

佐々木理恵は腰を折って笑った。「あなたが彼女を小さなライオンって呼ぶのも、同じようなものじゃない?」

橋本拓海は「彼女の同僚も小さなライオンって呼んでるって言ってたわ!」

佐々木理恵は笑いすぎて息が切れそうだった。「そんなことないわよ!あなただけがそう呼んで、しかも直接面と向かって、しかも思わず口に出しちゃって。相手はあなたが引っ込みがつかなくなるのを避けるために、そう言ってくれただけよ!」

「私は―」橋本拓海は喉に魚の骨が刺さったような表情で、不機嫌そうな顔をした。

佐々木理恵は笑い終わってから、橋本拓海が差し出したコーヒーを受け取って飲んだ。「橋本お兄さん、私は仕事をお願いしに来たの」

橋本拓海は困惑した。「仕事?私のところにどんな仕事があなたの目に留まったの?」

佐々木理恵はカップを置き、笑みを消した。「道川さんのあの番組、司会者の人選はあなたの会社が担当するんでしょう?」

橋本拓海は頷き、頭の中でまたあのスチールウールのような髪型が浮かんだ。

「私、あの番組の司会者をやりたいの」佐々木理恵は橋本拓海を見つめながら、静かに言った。

「えっ?」橋本拓海はすぐには反応できなかった。

佐々木理恵はすでに話し始めていた。「私も以前『生活を抱きしめる』という番組のメンバーだったから、私が司会をすれば、もっと自然に流れるわ。私は彼らみんなとよく知っているから、彼らの物語にも自然に入っていけるの」

「彼らが以前小規模な話題を呼んだのは『生活を抱きしめる』という番組のおかげで、今もし他の司会者が話を蒸し返すなら、少し不自然になるかもしれない。でも私なら、そんな問題はないわ。どう?」

橋本拓海は少し躊躇いながら頷いたが、彼が話す前に、佐々木理恵は続けた。「もちろん、私を起用するリスクは二つあるわ。一つは経験がないこと、もう一つは今ネガティブなニュースに囲まれていることよ」