338 結婚式

藤原美月が目を覚ますと、井上邦夫はベッドの横で寝込んでいた。彼は本当に疲れ切っていた。

暖かい陽の光が二人の上に差し込んでいた。藤原美月は手を伸ばし、井上邦夫の頭を撫でようとしたが、起こしてしまうのが怖くて躊躇った。

すべてが夢のようだった。関口孝志との7年も、一時的な記憶喪失の時の関口孝志の執着も、まるで夢の中で起きたことのようだった。

彼女は思い出した。記憶を取り戻したが、心には波風は立たなかった。

目の前のこのバカだけが、彼女の心を何度も何度も温かくしてくれた。

井上邦夫は突然体を震わせ、ぼんやりと顔を上げると、藤原美月の宙に浮いた手が目に入り、思わずその手を掴んだ。「美月さん?美月さん、目が覚めたの?」

彼はまだ頭がぼーっとしていた。

藤原美月は微笑みながら彼を見つめ、何も言わなかった。