354 試探

二見奈津子は振り向かなかったが、林千代は彼女が悲しんでいることを知り、心の中で快感を覚えた。

向井輝は林千代を玄関まで送った。「ありがとう、林千代」

林千代は軽く笑った。「何を遠慮することがあるの?私を他人扱いしないでよ」

向井輝は頷き、三歩ごとに振り返る林千代を見送った。

病室に戻ると、二見奈津子は無意識に目を閉じた。

「大丈夫よ、彼女は帰ったわ。階下まで見送ったから、安心して」向井輝は近寄って彼女の肩を叩いた。

二見奈津子はようやく目を開け、深いため息をついた。

向井輝は感心して言った。「彼女はすごいわね。私だったら、あんなに自由自在には振る舞えないわ。まるで過去に何も不快なことがなかったかのように!」

二見奈津子は同意した。「彼女の結婚式があんなことになって、きっと私たちのことを恨んでいるはず。私と藤原美月の関係を知っているのに、今日はこんなに穏やかに見舞いに来るなんて、この腹の内を考えると、私たちも用心しないといけないわね」

「もし彼女が私の不幸を喜んで来たのなら、むしろ安心できたのに。でも見てのとおり、私が本当に病気なのか、佐々木和利に本当に何かあったのかを確認しに来ただけよ。しかも事前に医師に確認までしている。この完璧すぎる対応は、往々にして本当の目的を隠しているものよ」

向井輝は頷いて、軽くため息をついた。「これが私が人との付き合いを避ける理由よ。こういう人と一緒にいると、私が売られても気づかないわ」

二見奈津子は彼女の手を叩いた。「人にはそれぞれ得意分野があるの。自分の短所を他人の長所と比べる必要はないわ。私はあなたを尊敬しているわ。こんな大変なことがあっても、こんなに冷静でいられるなんて」

向井輝は苦笑した。「佐々木光と結婚する前から、心の準備はしていたけど、実際に直面すると、やっぱり慌ててしまうわ。光はよく予告なしに消えるの。それは任務に就いているということよ」

「私は聞くことも、尋ねることもできない。彼を守るために、まるで彼が家にいて、私のそばにいるかのように装わなければならない。任務に出るたびに、私は不眠になって、心配で仕方がない。彼が突然戻ってくるまでね。その感覚は、まるでジェットコースターに乗っているみたい。一番長い時は三ヶ月も帰らなくて、私は十キロも痩せたわ」