向井輝が消えた。
向井輝は病院を出た後、部隊に戻って佐々木和利と合流するはずだったが、戻らなかった。
佐々木和利は向井輝が佐々木光と一緒にいたいのだろうと思い、注意力が集中しすぎていてこの件に気付かなかった。二見奈津子は、向井輝が戻った後は佐々木和利と一緒にあちらの件に対処していると思い、連絡を取らなかった。
佐々木光は二度目の手術を受け、半昏睡状態にあり、全員の安全のため、向井輝との単独連絡は既に取っていなかった。
二見奈津子と佐々木和利がこの問題に気付いた時には、向井輝の失踪から既に48時間が経過していた。
二見奈津子は目の前が暗くなり、慌てて机を掴んだ。
「大丈夫ですか?」長谷川透が心配そうに尋ねた。
二見奈津子は首を振り、椅子に腰掛け、目を閉じて冷静さを取り戻そうとした。佐々木和利との暗号化された通信チャンネルはまだ開いていた。
「奈津子?どうしたんだ?具合でも悪いのか?」佐々木和利は思わず焦った。
「大丈夫よ、和利、心配しないで」二見奈津子は落ち着いて佐々木和利を安心させた。
「長谷川さん、向井輝が病院を出た瞬間から、確認できる監視カメラ全てを調べて。どんな方法を使っても、どれだけの人手が必要でも、向井輝がどこで消えたのか突き止めて!」
「分かりました!任せてください!」長谷川透は頷いた。
「和利、向井輝のことは私と長谷川さんが対処するわ。あなたは今、兄さんの方の件を全力で解決することに専念して。一日遅れるごとに変数が増えるわ」二見奈津子は冷静に言った。
「兄さんの小隊を半分回せるが――」佐々木和利が言った。
「だめよ!和利、絶対に軽はずみな行動を取らないで。私たち、向井輝に何が起きたのか全く分からないのよ。あなたが軽率に動いて、そちらの人たちの注意を引いてしまったら、何の助けにもならないどころか、そちらの計画にも影響が出かねない。今は歯を食いしばって、まずはあなたの方を守らないと」二見奈津子は強く主張した。
二見奈津子は深く息を吸った。「和利、安心して。私は必ず向井輝を見つけ出すわ!絶対に!」
電話を切ると、二見奈津子は自分を落ち着かせようと努めた。
向井輝が消えてから48時間。もし誘拐されたのなら、なぜ身代金の電話もなく、条件も出されないのか?