378 もがき

「孝志お兄さん、私が言っているのは本当なのよ!千代さんはあなたが思っているような優しくて賢い人じゃないわ!あなたは優しすぎるから、彼女に騙されているのよ!」佐藤美咲は蛇のように身をくねらせながら、関口孝志の首に抱きついて甘えた声で言った。

激しい「運動」を終えたばかりの関口孝志は、心身ともに心地よい解放感に包まれていた。佐藤美咲が再び林千代の悪口を言い始めても、いつものように制止することはなかった。もう聞き慣れていたこともあり、ただ淡々と言った。「彼女の悪口を言うのはやめてくれ。君も知っているだろう、僕はそういう話は好きじゃない。」

佐藤美咲は唇を尖らせた。「男って本当に!痛い目に遭わないと分からないのね!彼女に大きな被害を受けてからじゃないと、どの女性が本当にあなたのことを想っているのか分からないのよ!もう!」

関口孝志は佐藤美咲の滑らかな背中を撫でながら、適当に相槌を打った。「分かってるよ、君が一番僕のことを想ってくれているって。」

佐藤美咲は彼の上辺だけの返事に満足せず、「ふん!口先だけじゃない。心の中では奥様を家の主人だと思っているんでしょう。待っていなさい!いつか後悔する日が来るわよ!」

佐藤美咲はそう言いながら、関口孝志の胸に軽く噛みついた。

関口孝志は笑って、佐藤美咲の後頭部を押さえ、激しくキスをした。

林千代の悪い面は感じられなかったが、佐藤美咲の良さは徐々に分かってきていた。

藤原美月との過去は、彼の心の中で二度と振り返れない傷となっていたが、佐藤美咲がその空虚を少しずつ埋めていっていた。そして今の彼は、あの時とは心境が違っていた。大切に扱う必要はなかった。佐藤美咲は藤原美月のように壊れやすくはなかった。

佐藤美咲との関係で、彼は完全な解放感を得ることができた。これは林千代には与えられない気楽な感覚だった。

関口孝志が病院に着いた時には、夜も更けていた。病室のドアを静かに開けると、母の傍らの医療機器が微かな光と単調な音を発していた。部屋を見回すと林千代の姿はなく、なぜか安堵感を覚え、もう足音を忍ばせることもなく、まっすぐ母のベッドへと向かった。

モニターの数値が点滅し、患者の容態に変化がないことを示していた。良くもなく、悪くもなく。