藤原美月は顔を上げ、鼻をすすり、自嘲気味に笑った。「母は明確に言ったわ。この世に生まれてきた人は誰でも自分の報いを受けるものだって。私がどんな目に遭おうと、それは私自身の因果だから、彼女には何もできないって」
「私と母は母娘の縁が薄いの。彼女が今日の地位を得たのは、自分の努力の賜物。もし私が昔、彼女が勧めた相手と結婚していたら、彼女は私の光を浴びることができたでしょうね。そうなら話は別だったでしょう。私は彼女に何の助けにもならなかったのに、彼女から同情や慰めを得ようとするなんて、笑い話よ」
二見奈津子は驚愕した。あの時期を思い返すと、藤原美月が海外から帰ってきた時、非常に落ち込んでいた。それは母親の冷酷さが原因だったのだろう。当時は関口孝志に深く傷つけられたからだと思っていた。
藤原美月は小さなフォークでケーキをつつきながら、淡々と言った。「結婚式の後、井上邦夫に頼んで天満家を調査してもらったの。彼らは財政危機に陥っているみたい。だから母が私を探しに来た理由がわかるわ」
「彼女はあなたに助けを求めているの?」二見奈津子は、この西野さんの底なしの厚かましさに呆れた。
藤原美月は冷ややかに鼻を鳴らした。「彼女が目をつけたのは私じゃなくて、私の背後にある井上家よ」
二見奈津子は黙った。西野さんの目は確かに鋭い。
「井上邦夫は知っているの?」二見奈津子は静かに尋ねた。
この二人はこれまで波乱万丈だった。やっと晴れ間が見えてきたところで、無関係なことに邪魔されてほしくない。
藤原美月はフォークを置き、諦めたような笑みを浮かべた。「その晩に井上邦夫に全て話したわ。義兄と義母にも。私にとっては、隠し事なんてないの」
「それに、母のやり方は普通の人とは違う。私のせいで井上家が天満家に巻き込まれるわけにはいかない。母が私に自分の報いは自分で背負えと教えたように、母の因果にも私は介入できない。彼女が教えてくれたことを、彼女自身も守るべきよ」
二見奈津子は少し安心した。「もし彼女がお金の援助を求めてきたら、あげればいいわ。私たちの共同口座のお金は自由に使っていいし、足りなければ、私の絵もそろそろ売れるから、そのお金も全部あなたに渡すわ」
藤原美月は感謝の気持ちを込めて二見奈津子の手を軽く叩いた。感謝の言葉は必要なかった。