火傷

星野夏子は軽く頷き、視線を落として、また一口お茶を飲んだ。「子供の頃、歯が悪くなるからと、母に甘いものを禁じられて育ちました。大人になってからは、それがすっかり習慣になってしまって……味覚は、ずっと偏ったままなのですわ」

少し考えてから、夏子はそう淡々と説明した。

藤崎輝は穏やかに微笑み、何か言おうとしたが、そのとき側に置いてあった携帯電話が再び震え始めた。彼は少し申し訳なさそうに星野夏子を見てから、携帯のカバーを開けて通話ボタンを押した。

電話は大野恵子からで、藤崎輝が約束通りに会っているかどうかを尋ねていた。

大野恵子の焦った口調を聞いて、藤崎輝は思わず眉をしかめた。電話の向こうで大野恵子が長々と不満を言うのを聞いた後、疲れた様子で冷ややかに答えた。「ああ、もう会っている。帰ったら話す」

黙って電話を切り、向かいの人を見ると、彼女は片手をティーカップに添え、冷たい眼差しで窓の外の暗い空を見つめていた。個室のスピーカーからは、どこか聞き覚えのある曲がゆっくりと流れていた——

stay with me…真夜中のドアをたたき、帰らないでと泣いたあの季節が、今、目の前。stay with me…口ぐせを言いながら、二人の瞬間を抱いてまだ忘れず、大事にしていた。

冷たい風が窓から吹き込み、寒さが急に襲ってきた。夏子は思わず軽く震え、無意識に両手を握りしめた。しかし、手を引っ込めた瞬間、「パン」という音とともに、手の甲に鋭い痛みが走った。そして同時に、彼女の手首が大きな手に掴まれるのを感じた。

「危ない」

その声には、どこか温かみのある気遣いが滲んでいた。

夏子もすぐに視線を戻し、自分の手の甲がこぼれたお茶でやけどして小さく赤くなっていることに気づいた。静かな瞳に一筋の暗い影が過り、少し狼狽えながら手を引っ込めようとしたが、真っ白なハンカチがゆっくりと彼女の前に差し出された。

彼女は少し躊躇った後、ゆっくりと手を伸ばして受け取り、手の甲についたお茶をそっと拭った。

「ありがとう存じます」

彼女は再び小さな声でお礼を言い、上げた美しい顔には謝罪の微笑みが浮かんでいた。

「やけどしたのか?」

彼は眉をしかめて彼女の少し赤くなった手の甲を見つめ、低い声で尋ねた。

夏子は静かに首を横に振った。瞳の光はどこか頼りなげだったが、それでも微笑みながら、無理に明るい声で答えた。「大したことはありませんわ。帰ってから氷で冷やせば大丈夫です」

「そんなに空ばかり見て、何が面白いんだ。呆けてしまうほどに」

藤崎輝の深い瞳に少し光が宿り、淡々と先ほど夏子が見ていた窓の外を見た。目に映ったのは広がる暗い空で、灰色がかっていた。窓から吹き込む冷たい風はどこか湿り気を帯び、かすかに降り注ぐ雨糸が見えた。

「実は、ずっとこんな空を見ているのは好きではありませんの。じっとりとした感じが、どうにも落ち着かなくて」夏子はヒリヒリと痛む手の甲をそっと押さえながら、彼の視線を追って、小さなため息をついた。「今年の瑞穂市は、春の訪れがことのほか早いようですわね。まだ年の瀬だというのに、もうこのようなお天気ですもの」

「ああ、先ほど広場を通った時、明後日には立春だとか言っていたな」

藤崎輝は一言答えると、ふと視線を戻した。ちょうどティーカップを手に取ろうとしたとき、彼女がまだ手の甲を押さえているのを見て、考えた後、突然大きな手を伸ばして彼女の手を開かせた。真っ赤になった手の甲が目に入った……

藤崎輝の軽くしかめていた眉はさらに深くなり、少し黙った後、ついにゆっくりと立ち上がり、片手で彼女の脇に置いてあったバッグを持ち上げた。

夏子は驚き、目に疑問の色が浮かんだ。何か言おうとしたが、彼の低い声がすでに聞こえてきた——

「病院へ行くぞ。でなければ、苦しむのは君自身だ」

言い終わると、夏子の返事を待たずに大股で外へ歩き出した。

竹韻楓林を出るとすぐに、部下の真が彼の車を運転してきた。しかし、それは豪華な車ではなく、彼女のパサートによく似た車種——フェートンだった。

内装は高級で豪華だが、外見は控えめで深みのある車種で、目の前の彼のように、内に秘めた深さがあり、人を測り知れない気持ちにさせた。

「若様!」

真はすぐに車を停め、素早く降りて歩み寄り、敬意を込めて声をかけた。

しかし、藤崎輝の隣に立つ星野夏子を見たとき、彼の目は輝き、顔に抑えきれない微笑みが浮かんだ。彼は気づかれないように慎重に自分の若様を見たが、若様はいつものように冷静で落ち着いた様子だった。

「こちらは真だ」

彼は真を指さした。

星野夏子は静かに頷いた。「初めまして。星野夏子と申します」

「星野様、初めまして!」

真は微笑みながら応え、ドアを開けた。

藤崎輝は表情を変えずに中の席を指さし、星野夏子に座るよう促した。

「お手数をおかけしますわけにはまいりません。自分の車で来ておりますので」

夏子は駐車場に停めてある自分の車を思い出し、小さな声で言った。

藤崎輝は視線を落とし、赤く腫れ上がった彼女の手の甲を一瞥すると、静かに車を回り込みながら、低い声で言った。「その手で、本当に運転できるとでも?」

星野夏子も自分の手の甲を見下ろした。ヒリヒリとした痛みに思わず眉をしかめた。真がすでに荷物を後部座席に置き、運転席に座っているのを見て、少し考えてから車に乗り込んだ。

真はすぐに車を発進させた。

「若様、どちらへ?」

前方の真が尋ねた。

「第一病院へ」

藤崎輝はそう淡々と言うと、隣の雑誌を手に取って何気なくページをめくり始めた。

星野夏子も何も言わず、少し体を縮めて、やけどした手を膝の上に軽く置き、もう一方の手で優しく押さえながら、頭を傾けて窓の外を見つめた。

車窓の外は、雨に煙る幻想的な世界が広がっている。濡れた街路を、傘を差した人々が足早に通り過ぎていく。半開きの窓から吹き込んでくる風も、どこか肌寒い。しかし、車内にはどこかほのかな温もりが漂い、背後から忍び寄る寒さを和らげてくれるようだった。

「瑞穂市も、ずいぶんと変わったものだな」

不意に、男の低い声が耳元で響いた。星野夏子ははっと顔を上げると、藤崎輝がいつの間にか雑誌から顔を上げ、静かな表情で車窓の外を眺めていることに気づいた。

星野夏子は、彼がここ数年海外で暮らしていたと聞いていたことをふと思い出し、すぐに淡く微笑んだ。「ええ、特にここ数年は。新しい五カ年計画が打ち出されてから、この辺りは新たな開発地区として、瑞穂市も北城のような賑やかな繁華街をもう一つ作ろうと躍起になっているようですわ」

清川グループもこの地域にいくつかのプロジェクトを持っており、そのうちの大きなプロジェクトの一つが彼女の担当だったので、夏子はこの地域の状況をよく知っていた。

「そんな話も聞いたな」

藤崎輝はふと視線を窓から外し、夏子の方を見た。眉がわずかに寄せられているのに気づき、視線を落とすと、やはりその手に目が留まった。手の甲は、ますます赤く腫れ上がっているように見える。そこで、眉をひそめ、前方の真に声をかけた。「10分以内に第一病院へ着け」

指示が飛ぶと、真はすぐに返事をし、車の速度を上げた。

今日は週末で、しかも雨模様の天気だ。街路は平日のような混雑はなく、そのため、車はいくつかの交差点を素早く抜け、あっという間に第一病院の敷地内へと滑り込んだ。