花火は美しくとも、やがて冷める(二)

星野心の聲は、突如として押し殺した嗚咽を含むものに変わった。星野夏子の冷ややかな背中を見つめながら、涙で潤んだ瞳を拭こうともせずに鼻をすすり、訴えるように言った。「私、本当に自分が悪いと思ってる。でも楓のことを、どうしようもないくらい愛してるの。お姉ちゃん、お願い、私たちを許して。お姉ちゃんの祝福があってこそ、やっと心から幸せになれるんだと思うの……」

「お姉ちゃんは本当に大切な存在なの。許してあげるよって言ってくれなきゃ、私……」

星野心のそのすすり泣くような聲は、星野夏子の耳にまるで冷たい鋼の針を何本も刺し込まれるように聞こえた。胸の奥が、今にも息が詰まるほど痛む。

――あまりにも、残酷だ。

目の前にいるこの女性は、以前は「友だち」と呼べるほどの間柄だった。しかし、ある日を境に父と母が突然離婚し、父が再婚することになった。そしてこの女性は、岡田心(おかだ こころ)から星野心と名乗って、星野家に入り込んだ。一方で、夏子の母である深田文奈は、すべての居場所を奪われる形で家を出ていった。

星野心は、誰からも好かれるような魅力をもっていた。素直で賢く、美しさと優しさも兼ね備えている。学校の成績も完璧で、星野家にやってきてすぐ、周囲の人の心をあっという間につかんでしまう。中でも、以前は夏子のことを溺愛してくれていた祖母までもが、心のほうを「可愛くてしょうがない子だ」と言って可愛がるようになった。

それに比べて星野夏子は、生来ひとりでいることを好み、人と話すのがあまり得意ではなかったし、成績もぼちぼち。星野家にとどまってはいたものの、普段は祖父とほんの少し言葉を交わすくらいで、家族の会話も、いつも浮いていた。いつからか、身内でさえ夏子の存在を忘れてしまったかのように扱い、逆に星野心だけを「掌中の珠」として持ち上げるようになったのだ。

もともと橋本楓は、星野家の星野旦那様と橋本家の祖父との長年の友情から決められた縁談で、星野夏子へと婚約が約束されていた。将来は両家が親族になることで、さらに強い絆が結ばれる――そんな思惑があったのである。ところが今、その楓は星野心と結ばれようとしている。かつての約束はすっかり過去のものとして扱われ、あたかも初めから何事もなかったかのように。

今、彼女が滑稽に感じるのは、目の前の鏡に映る、泣いて哀れな女性と彼女の母親が、彼女の幸せな家庭を壊し、父親の愛を奪い、星野夏子の輝きを奪い、さらに彼女の愛する人まで奪ったにもかかわらず、今になって泣きながら彼女に理解と許しを求めていることだった…

おそらく、この世で最大の皮肉はこれ以上ないだろう。

彼女は思い出した。ずっと昔、彼女と橋本楓は羨ましがられるカップルだった。彼らの間には、少なくともいくつかの美しい思い出があった。しかし今では、それはすべて冗談に過ぎなかった。

温かい家族の絆を失った彼女は、橋本楓との感情を守り続ければ、せめて冷えきった家族の中でも、その人との絆さえあれば生きていけると思っていたのに。今、それすらもあっさり奪われた。

花火のように一瞬華やぎ、夜空に消えていく。それが自分の「幸せ」のすべてだったのかもしれない、と夏子は思う。

夏子は、うっすらと微笑んだような表情のまま、氷のように冷えきった聲で言った。「……私の心を、あんたたちは深く傷つけたのよ。いまもその傷は治ってないのに、どうして許してくれなんて言えるの。赦しとか祝福とか、言葉を並べられるたび、星野心、あんたの残酷さに驚かされるわ」

「……お姉ちゃん、私が全部悪いの。だけど、こんなふうに辛くなってるお姉ちゃんを見ていると、心が痛くて……。特に、お母さんから聞いたんだけど、ここ数年お姉ちゃんは家に帰ってなくて、みんなが心配してるって……。おじいちゃんもおばあちゃんも、それにお父さんだって、ずっと待ってる。だから、そんなふうにしないで……。みんな、自分を責めちゃうから……」

星野心の目から大粒の涙が流れ始め、涙でいっぱいの顔で近づき、緊張した様子で星野夏子の腕を抱きしめた。しかし、星野夏子は冷たくそれを振り払った—

「どいて。触らないで」

「ドン!」

星野心は不意を突かれ、後ろに倒れた。磨かれたビーズのカーテンが激しく揺れ、'チリンチリン'と床に散らばった。星野心はよろめき、ハイヒールで床に散らばったビーズを踏んだ—

'カッ'という鋭い音がして、星野心は悲鳴を上げ、床に倒れた!

「星野夏子、あんまりにもひどいじゃないか!」

冷たい怒りの声が一瞬にして響いた—

その怒気をはらんだ低い聲に、星野夏子は愕然としたように振り向く。そこには、橋本楓が険しい顔で立っていて、その瞳には押し殺せない怒りと失望が渦巻いているように見えた。

そのような眼差しは、星野夏子の目には毒を塗った鋼の針のように骨髄に突き刺さり、心を刺すような痛みを感じるはずだった。

しかし、今の彼女が唯一感じることができるのは、ぼんやりとした感覚だった。それは麻痺したような茫然自失の感覚だった。

橋本楓は荒々しい足取りで駆け寄り、床に倒れかけている星野心を助け起こす。その顔つきからは、心を哀れみ、どこか愛おしむ気持ちがひしひしと伝わってきた。「心、大丈夫か?痛くない?」

顔を真っ青にして肩を震わせる星野心は、眉間には耐え難い苦痛の色が浮かんで、唇を噛んで震えながら、必死で言葉を紡ぐ。「……平気。私が不注意だっただけ……。お姉ちゃんのせいじゃ、ないの……」

「いいや、見てたよ。心は何も悪くない。そんな顔をしなくていい」

橋本楓は星野心の青白い顔を見て心を痛め、眉をひそめた。星野心を助け起こそうとしたが、彼女が少し動いただけで、たちまち苦痛の悲鳴を上げ、小さな顔には耐え難い痛みが浮かんだ。

「痛い…」

星野心は橋本楓をしっかりと掴み、額には大粒の汗が浮かんでいたが、それでも精一杯説明しようとした。「楓さん……でも、そもそも、私のせいでこうなった。ずっとお姉ちゃんに背を向けられたままは、嫌なの。もしこのまま結婚しても、私はずっと負い目を抱えたまま……」

「心……」

橋本楓はどうしようもないといった表情で、小さく息をつく。心の瞳から再び涙が溢れ出るのを見て、たまらず彼女を抱き上げようとした。その瞬間、星野心は自らの手で楓を押しとどめ、痛む足を引きずりながら、倒れそうになりながらもまた星野夏子のほうへ歩み寄る。

「お姉ちゃん……私……」

「心、無理するなって!」

……

ずっと一言も発さずに、星野夏子は淡々と彼らのやり取りを見つめていた。心の中では、冷たい風が通り抜けるような感覚がする。何もかも疲れきってしまった、と今さらのように気づく。

――何を言っても無駄。そう思った夏子は、とにかくここから離れようと歩を進める。

すると星野心が、溺れかけた人間が救いを求めるように、夏子の腕をぎゅっと握りしめた。痛む足に耐えながら、それでも縋りつくような表情で顔を上げ、哀れっぽく懇願した。「……おじいちゃんの誕生日、来週末なの……。お姉ちゃんのこと、みんなが待ってる。お父さんもおばあちゃんも、久しぶりに顔を見たいっている。憎んでいるのはわかっていますが……本当にごめんなさい。お願いだから、帰ってきてほしい……」

「離して」

星野心の言葉を遮るように、星野夏子の冷ややかな聲が落ちた。

「お姉ちゃん!」

「……私があんたを恨むとか、そんな面倒な話じゃない。深田文奈は、この世に私、星野夏子しか産んでいないの。つまり、星野心、あんたは何者でもない」

星野夏子は力強く自分の手を引き戻し、冷静で冷淡な目で他人を見るかのように星野心を見つめ、冷たくかすれた声で言った。「この星野夏子には兄弟姉妹はいない。だから妹だなんて演じるのをやめて。あんたが疲れない?私はもううんざりなの」

そう言い放ちながら、夏子は力いっぱい手を振りほどいた。支えを失った星野心がよろめいた瞬間、橋本楓がすかさず身体を差し出し、彼女を抱きとめる。