056章 藤崎さんはナルシスト(一)

二人は密かに視線を交わし、まったく反応できなかった!

今のあの女性は誰を「奥様」と呼んだのだろう?

星野心は心の中でハッとし、青白い顔が急に奇妙な表情に変わり、美しい瞳にも信じられないような光が宿った。何も構わず、急いで追いかけた。

黄前珊瑚はそれを見て、すぐに後を追った。二人とも一瞬恍惚とし、幻聴を聞いたような気がした。

しかし、前方には星野夏子の姿はもうなく、混雑した人波に彼女たちはほとんど飲み込まれそうになった。彼女たちは長い間探したが、結局星野夏子の姿を見つけることができず、まるで先ほどの出来事が幻のようだった。

「心、あなたは今あの女性が星野夏子を何と呼んだか聞いた?あの女性は星野夏子を何か奥様と呼んでいたんじゃない?」

黄前珊瑚は足を止め、少し息を切らしながら、同じく顔を赤らめた星野心に向かって尋ねた。