第162章 涼夜微暖(二)

彼女は黙って顔を上げて彼を見つめた。澄んだ穏やかな小さな顔が彼の目に映り、彼の心は突然柔らかくなった。大きな手が思わず軽く上がり、彼女の美しい腰まで届く長い髪を通り抜け、身をかがめて頭を下げると、涼やかな口づけが落ちてきた。

清らかで独特の冷たい香りが彼女を包み込み、彼女は一瞬恍惚としたが、拒むこともなく、ただ彼の服をしっかりと掴み、思い切って目を閉じて彼の求めに身を任せた。

しかし彼は過度に求めることはなく、軽く味わうだけで、適度に止めた。

痛みを堪えて彼女の淡い唇から自分を引き離し、彼女を一気に自分の胸に引き寄せ、抱きしめた。低い声が感情的に響き、彼女の心を柔らかくさせた——

「僕のこと、思い出してた?」

彼はそう尋ねた。

彼女は一瞬躊躇し、無意識に胸の中の服をきつく握りしめ、少し考えてから顔を上げて彼を淡々と見つめた。澄んだ瞳は真剣さに満ちていて、静かに答えた。「藤崎さんよりも、藤崎さんの作る料理が恋しかったわ……」

「本当に食いしん坊だな」

彼は軽く叱ったが、整った顔には珍しく風のように穏やかな笑みが浮かび、深い瞳に宿っていた疲れが少し和らいだ。

「夜食を作ってあげるわ、あなたがお風呂に入った後に食べられるように」

星野夏子はもがきながら言った。

「機内で食べたから、お腹は空いていない。お風呂の準備をしてくれないか」

彼はようやく彼女を優しく放し、ついでに彼女の少し乱れた美しい髪を整え、低い声で答えた。

彼女はうなずき、汚れた服を片付けながらバスルームへ向かった。彼は引き続きクローゼットを開けて服を探した。

……

藤崎輝がバスローブを着て、すでに乾かした黒髪を軽く払いながらバスルームから出てきたとき、星野夏子はベッドの頭に寄りかかって明日の開会式のプログラムなどの資料に目を通していた。

淡い気配を感じ、続いて隣の場所がへこんだとき、彼女はようやく書類から顔を上げた。

「こんな遅くにそんなものを見て何をしているんだ?片付けて早く寝なさい」

彼は彼女の手から書類を取り上げ、閉じて、隣のナイトテーブルに置いた。

「明日の流れの詳細よ。今日は一日中忙しくて見る時間がなかったの。明日は早朝から急いで行かなきゃいけないから、見落としがないか確認したかったの」

「大体で十分だ。もう遅いから、明日また見ればいい」