第232章 茫然と喪失感(二)

しかし、その大野秘書が話を終える前に、ドアの方から突然ノックの音が聞こえた。

「橋本社長、清川監督のアシスタントだという女性がお手紙をお持ちしました。いかがいたしましょうか?」

女性秘書が分厚い封筒を橋本楓の机の前に置いた。

清川監督?

星野夏子?

橋本楓は深い瞳を思わず細め、その分厚い封筒を受け取り、開封して中の書類を取り出した。かなり厚い束で、彼は丁寧に目を通し始めた……

しかし、あまり先を読まないうちに、彼の表情は曇り始め、急いでページをめくった。目に入ってくるのは星野心が行った悪事の詳細なリストで、何年も前の路地での襲撃事件や、いとこの黄前珊瑚にプレゼントしたネックレスが不思議と紛失した事件など、大小さまざまな出来事が……

黒い瞳に信じられないという光が浮かび、手の中の書類をきつく握りしめ、呼吸も少し荒くなった。厳しい顔に薄く青白さが浮かんだ。

そんなはずがない!

彼の頭の中にはそんな言葉が浮かんだ。

しかし、そこに列挙された証拠と星野心自身が書いた誓約書は、これがすべて真実であり、でっち上げではないことを彼に思い出させていた!

「ガチャン!」

横にあったコーヒーを取ろうとした指先が思わず震え、彼が見下ろすと、淹れたばかりのコーヒーが床に花のように広がり、カップの破片も床一面に散らばっていた。

そのとき、彼はぼんやりと思い出した、確か……

誰かが彼のメールボックスに送ってきた星野心に関する資料……それはすべて真実だったのだ……

最初に受け取ったとき、彼は当然信じなかった。そしてこの数日間のプレッシャーもあり、出張のついでに少し息抜きをして、自分の心の整理をしようと思っていたが、わずか2日の間に、事態は収まるどころか、さらに大きな波紋を広げていた……

星野心……

つまり、彼女はこの数年間ずっと彼を騙していたのか?

橋本楓の表情が変わり、瞳には信じられないという冷たい光が満ちていた。全身が緊張して硬直し、オフィスチェアに動かずに座っていた。突然、世界全体が静まり返ったように感じた。

「橋本社長?橋本社長?大丈夫ですか?」

橋本楓のそのような様子を見て、大野秘書は驚き、少し焦って呼びかけた。