医師が一通り説明を終えると、部屋を出て行った。
「お母さんは退院したいの?」
星野夏子は隣のソファに座り、小声で尋ねた。
「彼女は病院が嫌いで、退屈だから退院したいと言っているんだ」
向かいに座る星野山は少し暗い表情で答え、その声にも明らかな落胆が隠せなかった。
星野夏子は一瞬躊躇し、無意識に隣の藤崎輝を見た。彼が考え込むように星野山を見ていることに気づき、何か言おうとした時、ドアから軽いノックの音が聞こえた。
全員が素早くドアの方を見ると、まだ腕を吊っている真の姿があった。
「若様!」
真は軽く会釈をして、声をかけた。
藤崎輝はゆっくりと立ち上がり、部屋を出た。
……
藤崎輝は廊下のベンチに座ると、真はすぐに茶色の封筒を差し出した。「若様、これが整理した資料です。木村大輔のものも含めて。後で指示された件はまだ調査中です」
藤崎輝は手を伸ばして受け取り、開けて中の書類を取り出し、ざっと目を通した。数枚の写真も添付されていた。彼は頷いて書類を戻した。
「よくやった。これは予想外の収穫だ。岡田家の口を封じる方法を考えていたところだったが、これがちょうどいい」
藤崎輝は眉を上げ、意味深に真を見た。
真のハンサムな顔に笑みが浮かんだ。「これはすべて虎さんの功績です。彼が九龍ニュータウンでその岡田凛子を見かけて覚えていたなんて。これも運命かもしれませんね」
「この二日間、腕の具合はどうだ?」
視線はすぐに真の腕に移り、藤崎輝は低い声で尋ねた。
真も少し視線を落として、まだ包帯で巻かれた腕を見てから笑った。「大したことありません!数日で良くなりますよ、ご心配なく」
「祖父母はどうしている?」
藤崎輝はこの数日、家にほとんど電話していなかった。あの日、真の状況を知らせただけだった。
「彼らは私の家にたくさんの使用人を呼び、凌子の服や靴も大量に買い込んでいます。それに凌子のために腕の立つ付き人も雇いました。きっと心配しているのでしょう。映画村の件は一時的に松尾副社長に任せたので、最近は毎日凌子とクラブに行くつもりです。そうすれば安心できますから」