第390章 他人の不幸を喜ぶ(二)

深田文奈は慎重に座り、斉藤礼が彼女の姓を呼べることに少し驚いて、穏やかに微笑んで言った。「どうして私の姓を知っているの?」

斉藤礼も微笑みながら深田文奈の隣に座り、静かで上品な彼女を一瞥した。その眉や輪郭には星野夏子の面影がわずかに見えた。しばらくして、彼は小さく笑って言った。「さっきの一幕を少し見ました。私は夏子の友人で、彼女は前に私を助けてくれたんです。ずっとお礼を言いたかったのですが、機会がなくて。今日はこんなに幸運なことに、深田おばさんにお会いできるなんて!」

斉藤礼の言葉を聞いて、深田文奈は驚き、顔を傾けて尋ねた。「あなたは夏子の友達なの?」

斉藤礼はうなずいた。「友達です。私は斉藤礼と言います。おばさんは名前で呼んでください。」

「斉藤礼?」

深田文奈は小さく名前を呟いた。「今日は本当にありがとう。」

あの女性がいつまで粘着していたか分からないところだった。

「いいえ、お安いご用です。深田おばさん、どこか怪我はしていませんか?」

斉藤礼は当然、深田文奈の件について知っていた。新聞では大々的に報じられていたが、ここ数日は最新の進展が報道されていなかった。誰の仕業かは想像に難くなかった。

間違いなく藤崎輝が圧力をかけたのだろう。しかし、岡田家の方もここ数日かなり騒がしいと聞いている。噂の真偽ははっきりとは分からない。

「大丈夫よ、怪我はしていないわ。」

深田文奈は感謝の笑みを浮かべた。

斉藤礼はようやく手の中の紙を広げて見た。それは怪我の診断書で、軽い脳震盪や前歯の脱落などが記されていた。彼女の青あざだらけの顔と先ほどの言葉を思い出すと、意味は明らかだった——

おそらく星野夏子に殴られたのだろう!

あの女性は本当にすごい。岡田凛子の怪我を見ると、かなり激しく殴られたようだ。これも深田文奈の件が原因だろうか?

斉藤礼は意味ありげに笑いながら視線をそらし、隣の深田文奈を見た。手元のものをしまおうとした時、前方から突然、星野夏子の冷たい声が聞こえた——

「なぜここにいるの?」

斉藤礼は思わず顔を上げると、目の前に立つ星野夏子が見えた。彼女は水のボトルを一本手に持ち、もう一方の手には携帯電話を握っていた。澄んだ瞳には冷たい光が宿り、彼を見つめていた。

「夏子!」