車もゆっくりと動き出した。
「帝国へ行け」
橋本楓は冷淡にそう言い放ち、軽く閉じた目は一度も開かなかった。
そして隣の星野心からは微かにすすり泣く声が聞こえ、橋本楓の耳に届くと、心の中に沈んだ気持ちと苛立ちが湧き上がってきた。
しばらくして、彼はようやく目を開け、隣の星野心を見ると、彼女は顔を覆い無力に泣いていた。深く息を吸い込んでから、ティッシュを取り彼女の膝の上に投げ、顔を窓の外に向けた。
外の空はすでに暗くなり、街灯が灯り始める頃だった。街灯の光が車内に差し込み、まだらな影が後ろへと移動していく。両側の通りには絶え間なく人々が行き交っていたが、この光景を見ていると、橋本楓の心には言い表せない寂しさと孤独感が湧いてきた。
黙々と泣き続けていた星野心はようやく顔を上げ、先ほど橋本楓が渡してくれたティッシュを取り、顔に残った涙の跡を拭き取った。顔を向けて橋本楓を見ると、彼は物憂げな表情で窓の外を見ていた。彼女は鼻をすすり、しばらく彼を見つめてから、かすれた声で呼びかけた。「楓……」