第436章 交渉(二)

車もゆっくりと動き出した。

「帝国へ行け」

橋本楓は冷淡にそう言い放ち、軽く閉じた目は一度も開かなかった。

そして隣の星野心からは微かにすすり泣く声が聞こえ、橋本楓の耳に届くと、心の中に沈んだ気持ちと苛立ちが湧き上がってきた。

しばらくして、彼はようやく目を開け、隣の星野心を見ると、彼女は顔を覆い無力に泣いていた。深く息を吸い込んでから、ティッシュを取り彼女の膝の上に投げ、顔を窓の外に向けた。

外の空はすでに暗くなり、街灯が灯り始める頃だった。街灯の光が車内に差し込み、まだらな影が後ろへと移動していく。両側の通りには絶え間なく人々が行き交っていたが、この光景を見ていると、橋本楓の心には言い表せない寂しさと孤独感が湧いてきた。

黙々と泣き続けていた星野心はようやく顔を上げ、先ほど橋本楓が渡してくれたティッシュを取り、顔に残った涙の跡を拭き取った。顔を向けて橋本楓を見ると、彼は物憂げな表情で窓の外を見ていた。彼女は鼻をすすり、しばらく彼を見つめてから、かすれた声で呼びかけた。「楓……」

「その安っぽい涙はもういい、心。それはお腹の子にもよくない」

長い沈黙の後、橋本楓はようやく低い声でそう言った。

今となっては、彼は何を言えばいいのかわからなかった。すべての言葉が空虚で無力に感じられた。

橋本楓の言葉を聞いて、星野心はすぐに反射的に少し膨らんだ自分のお腹に手を当て、鼻をすすり、涙で曇った目で橋本楓を見つめた。「楓、あなたはまだ私たちの子供を気にかけているのね?あなたがそこまで冷たくなれるはずがないって知っていたわ。あなたが私に会いたくないって言ったって、信じなかった……今は私にはあなたしかいないの、あなただけよ、楓……姉さんは月影を潰しただけじゃなく、私とママと祖母を西園から追い出したの……あなたは本当にそれを見て何もしないの?あなたは私が苦しむのをただ見ているだけなの?」

星野心は悲しみに打ちひしがれ、鼻と口を覆い、言い表せない苦痛に耐えるかのように、赤い目で橋本楓を見つめた。