第435章 交渉（その一）

黄昏の涼風が斑模様の薄い影を金色の夕日の残光の中に揉み砕き、一筋の黒いシルエットがゆっくりと楓の館の方向へ向かって走ってきた。

星野夏子は車を停めると、すぐに降りた。

家に戻ると、遠くからリビングで音楽がかかっているのが聞こえ、きっと彼が台所で料理をしているのだろうと思った。

彼女は荷物を置くとすぐに台所へ向かい、案の定、部屋着姿の男性がゆったりと調味料を調合しているのを見た。隣のコンロでは何かがじっくりと煮込まれており、入り口に立っただけでも誘惑的な香りが漂ってきて、思わず唾を飲み込んでしまった。

キラキラとした目で周りを見回すと、なんと流し台の横で魚を処理している深田勇の姿が…

「甘酢あんかけにする？それとも蒸し魚？」

藤崎輝は調合した調味料を脇に置き、深田勇から魚を受け取りながら、低い声で尋ねた。

「甘酢あんかけにしてくれ。これは飯がすすむからな！輝、お前はお母さんより腕がいいな。夏子のやつはこの方面は不得手だ。お前の母親もよく彼女のことを心配して、嫁に行っても嫌われるんじゃないかって言ってたよ。」

深田勇は脇にあった生姜を洗い始めた。

それを聞いて、藤崎輝は小さく笑った。「誰が彼女を嫌うだろうか？得意でなくても何も悪いことはない。女性の中には生まれながらに守られるべき人がいる。私の目には、彼女も母も同じようにそう見える。」

「お前は随分と開明的で寛容だな。初めておばあさんがお前のことを話してくれた時、お前の姿を見て、一目で気に入ったよ。一目見ただけで夏子とお前が合うと思った。その後はほとんどおばあさんから詳しい説明を聞かなくても、お前という若者が私の目に適っていた。」

深田勇はため息交じりに言った。

「そう言われると、お義父さんに良い第一印象を持ってもらえたことに感謝しないといけませんね。」

「まあな、私は自分の人を見る目を信じているからな。」

深田勇も謙遜しなかった。

「お義父さん、彼はあなたが言うほど良い人じゃありませんよ。ある人は今朝、自分が大悪人だと自ら認めていましたから。」

星野夏子の清らかで笑いを含んだ声が突然後ろから聞こえてきた。二人は急いで振り返り、入り口に立つ星野夏子を見た。

「帰ってきたのか？」

藤崎輝の優しい声がすぐに響いた。