北川雲上錦

名門の盛大なパーティーの席で、私、星野夏子の婚約者はあろうことか実の妹にひざまずき、プロポーズをした。一瞬にして相続権を奪われ、星野家からは政略結婚の駒として、まるで生贄のように差し出される運命に。

すべてを失い、心の底まで凍てつくような絶望の中、これまでの全てを葬り去ることを決意した夏子は、最後の望みをかけてある男のもとへ向かった。彼は、瑞穂市で並外れた権力を握る『清川グループ』の若き総帥、藤崎輝。誰もが近寄りがたいオーラを放つ、クールな男。

「藤崎さん、わ、私と、結婚してください」

書類の山からふと顔を上げた輝が、夏子を捉えると、静かに立ち上がった。

「行こう」
「……どちらへ？」
「急げ。役所がもうすぐ閉まる」

こうして始まった、偽りの結婚生活。けれど、ある夜――
「そろそろ義務を果たしましょうか、奥さんとして」
「そ、そんな興味がないと聞いていたのよ！？」
「さあな、試してみましょうか」
そして、甘く乱れた一夜が明け――
「藤崎輝！この大嘘つきっ……！」

契約婚から始まる逆襲

木村大輔の姿がドアの外に消えるやいなや、渡辺薫と須藤菜々たちが慌ただしく駆け込んできた——


「夏子！夏子！どうだった？大丈夫？怪我はない？」


須藤菜々の慌てた声が聞こえ、星野夏子が反応する間もなく、彼女はすでに緊張した様子で駆け寄り、星野夏子の手を取って慌てて彼女を見回し始めた。


星野夏子は深く息を吸い込んだ。星のような瞳に広がる恐怖感はまだ消えておらず、しばらくしてから須藤菜々の肩を軽くたたき、小声で言った。「安心して、大丈夫よ、私は無事だから！」


そう言いながら、彼女は藤崎輝の方を振り向いた。彼が無意識に手を引っ込めるのを見て、星のような瞳を細め、素早く彼の左手を見た。そして手を伸ばして彼の手を引き寄せ、袖をめくると、手首の外側に血が滲んだ歯形が鮮明に残っているのを発見した！


星野夏子は恐怖に震えながら叫び、全身が震えた！


「すぐに病院へ行きましょう！急いで！」


彼女の胸が激しく上下し始め、慌てて藤崎輝を引っ張って外に向かおうとした。


藤崎輝は眉をひそめて彼女を引き止めた。「心配するな！」


「まあまあ、まずは彼を動かさないで。ナイフを持っている人はいる？」


このとき、須藤旭がタイミングよく口を開いた。傍らの黒服のボディガードの一人が素早く鋭い小さなナイフを差し出した。


「夏子、落ち着いて、大丈夫だから！少し下がって。」


須藤旭は一言慰めると、藤崎輝の噛まれた手を引き寄せ、素早く正確に傷口に小さな「十」字を切り、それから頭を下げて口で毒を数回吸い出した。吸い出した血の色が鮮やかな赤になるまで続け、やっと止めた。


黒服のボディガードが差し出した絆創膏を受け取り、藤崎輝に貼ってから、洗面台に行って口をすすぎ、手を洗った……


「これで大丈夫。あとは病院で処置してもらって、血清を打てば問題ないよ。あまり心配しないで。」


須藤旭は黒服のボディガードから渡されたティッシュで手を拭きながら言った。


「じゃあすぐに病院へ行きましょう。」


星野夏子はきっぱりと答えた。


「僕も一緒に行くよ。薫、彼らに説明しておいてくれ。行こう。」


須藤旭はそう言うと、藤崎輝の返事を待たずに彼を引っ張って外に向かった。星野夏子もすぐに後を追った。


第476章 驚愕！（三）

第476章驚愕！（三）