本来は藤崎家の旧邸で夕食を済ませてから帰るつもりだったが、夫婦二人が荷物をまとめたところで、藤崎輝の携帯が鳴り始めた。
どうやら省庁からの電話のようで、おそらく何か急ぎの用事があり、藤崎輝に一緒に夕食を取るよう誘っていた。
藤崎輝は断るつもりだったが、星野夏子は彼に行くよう勧めた。彼女はちょうど荷物を藤崎凌子に届けに行くところだったし、今朝出かける時にそれらの荷物を整理して車に積んでおいたので、約束の場所に行く途中で藤崎凌子のところを通ることになっていた。
「前の交差点で止めて、人は連れて行って」
あるエンターテイメント施設の中心ビルの下に車で到着したとき、藤崎輝が突然口を開き、シートベルトを外した。
「私は大丈夫よ、あなたが連れて行って。正式な場だし、あなた一人だと寂しいでしょう。元々あなたについて来た人たちだし」