第529章 心が冷える（二）

星野夏子は彼から漂う一筋の物悲しさを感じ取ることができた。

この数日間、斉藤礼のことについて耳にしないことはなかった。深田勇も以前彼女に話していた。この斉藤礼は斉藤惇に気に入られておらず、斉藤惇と大野琴子はさらに……

ここまで考えると、彼女の心にも何とも言えない感慨が湧いてきた。実際、彼の気持ちはよく分かっていた。彼女も同じように孤独な20年余りを過ごし、さまざまな方面からのプレッシャーに耐えてきた。星野心の陰湿な陥れ、橋本楓の冷たさ……

きっと彼もこの数年、楽な日々を送ってきたわけではないだろう。そして彼らの経験がこれほどまでに似ているなんて！

「落ち込んでいる時はいつも、自分の苦しい闘いを感じる。かつて士官学校を追い出された時、教育棟の屋上から飛び降りて、すべてを終わらせ、自分の潔白を示そうと思ったことがある……橋本楓が婚約を破棄して星野心と遠くへ逃げた時、私は心が痛くて、酔いつぶれて終わりにしたいと思った！彼らに株式譲渡書にサインするよう強制され、取引の駒にされた時、私は絶望した……」

星野夏子は下を向き、通りを行き交う人々を見つめながら、ふと静かに話し始めた。

斉藤礼はそれを聞いて一瞬立ち止まり、突然彼女の方を振り向いた。しかし彼女の表情は冷静で平静だった。

「私は自分が不幸だと思っていた。なぜ私がこんなに努力して我慢し、自分を犠牲にしてまでしたのに、運命の恵みを一度も受けられないのか？後になって、この世の多くのことは私たちの思い通りにはならないということを理解した。たとえ私たちが努力して成し遂げようとしても……」

「聞いた話では、あなたは以前、橋本楓をとても愛していたそうですね？」

斉藤礼は彼女を見つめながら、低い声で尋ねた。

星野夏子は一瞬驚き、星のような瞳に複雑な感情が浮かんだ。しかし、すぐに元の澄んだ目に戻り、否定せずに淡々と答えた。「橋本楓は幼い頃から決められていた婚約者でした。物心ついた頃から、将来は彼の花嫁になると知っていたので、ずっと彼を追いかけていました。当時の彼はとても良い人で、優秀で、私をとても守ってくれました。私は彼に感謝していましたし、好きだったことは認めます。彼と結婚して一生を過ごすことを考えていました。」