第552章 事件（一）

オフィスの雰囲気は当然とても和やかで、夫婦二人が話している間、藤崎輝はずっと余裕を持って料理を夏子さんの口に運んでいた。そして夏子も当然のようにそれを全て受け入れていた。

「今夜は外に出かけましょう。もうすぐ中秋節だから、おじいさんに秋の服を買いたいの。いつもは母が買っていたけど、今は両親がしばらく帰ってこられないから...あなたが私に付き合って...」

彼女はスープを飲みながら、ふとそのことを思い出し、顔を上げて、少し期待を込めた目で彼を見た。

彼は穏やかに微笑み、思わず手を伸ばして彼女の頭を撫でた。「奥さんが外出するなら、保護者としての役割は当然果たさなければ。このスープを飲み終えたら、今夜は僕は君のものだよ」

「今夜だけ？ある人は一昨日の夜、永遠に私のものだと言ったのに...」

彼女は微笑みながら彼を見つめ、澄んだ瞳には柔らかな光が漂っていた。それを見た藤崎の心は完全に溶けてしまったが、かろうじて正気を保っていた—

「そんな色っぽい言葉は、絶対にあなたの藤崎さんが言ったものではないね」

彼は冷静に答え、高貴で冷たいイメージを保っていた。

星野夏子は小さく笑い、時々彼を見つめると、この男性の整った顔に今、かすかな赤みが浮かんでいることに気づいた...

彼女は軽く笑い声を漏らし、それから静かに頭を下げて、スープを飲み続けた...

藤崎輝もすぐに普通の状態に戻り、箸を取り、食事を続けようとしたとき、突然ドアをノックする音が聞こえ、夫婦は反射的に顔を上げてドアの方を見た。

目に入ったのは、儒雅な雰囲気の渡辺薫だった。ただ、今彼の顔には焦りの色が浮かんでおり、大股で部屋に入ってきた。

星野夏子は驚きを隠せなかった—

須藤旭と渡辺薫の二人は普段も時々藤崎輝のところに来て、お茶を飲んだり雑談したりしていたが、毎回来るときはかなりのんびりしていた。しかし今回は...

「どうしたんだ？」

藤崎輝は一目で渡辺薫の顔に何か異変があることを見抜き、渡辺薫が口を開く前に尋ね、手の動きを止めた。