工藤希耀は夏目初美が明らかに自分を心配していることに気づき、酸っぱさと甘さの両方の感情が一瞬にして心に湧き上がった。
彼はしばらく考えてから、手を伸ばして彼女の手を握った。彼女が振り払わなかったのを見て。
そして何か宝物を手に入れたかのように笑いながら続けた。「当時の僕と今の僕を比べると、かなり変わったよ。あの頃は痩せて黒くて、髪も長かったし、君と本当に話したこともなかった。僕のことを覚えていないのも当然だよ。」
「特に後になって、僕は関口町で本当の反面教師になってしまった。最初は人々が僕のことを話すとき、同情か軽蔑を込めて『あの私生児』と言うだけだった。僕には...父親がいないと言われ、母親に害されたと言われた。僕を責めることはできないと。だって選べるなら、僕だって母の子供になりたくなかったから。」
「でも後に僕は...人を殺そうとして、パトカーに連れていかれた。そうなると人々は同情なんてせず、軽蔑と罵りだけで『やっぱりネズミの子はトンネルを掘る、母親がろくでなしなら息子もそうだ』と口を揃えて僕のことを『悪種』と呼ぶようになった。」
「君はその頃すでに都会に戻っていて、たとえ回りまわって僕のことを聞いたとしても、良い話じゃなかったから、完全に忘れてしまうのも当然だよ。」
夏目初美は急いで言った。「違うわ、私は一度もあなたやお母さんを軽蔑したことはないし、悪い人だと思ったこともないわ。」
工藤希耀が信じないかもしれないと思い、さらに強調して言った。「本当よ!お母さんはやむを得なかったのよ。私の大叔母もあの時、彼女が大変だと言っていたわ。自分を養い、子供も育てなければならない。生きていくためには、他のことなんて何の意味があるの?」
「他人の悪口を聞かないように、ましてやそれに加担しないようにって。それに私には目があるし、自分の考えや判断力もあるわ...」
あの頃、夏目初美が大叔母の家に来て数日後、同じ路地に非常に美しい女性が住んでいることを知った。
大叔母と食事をしているとき、ずっと黙っているわけにもいかず、どういうわけか工藤希耀の母親の話題になった。
そこで彼女の運命が非常に厳しいものだったことを知った。十代で父親を亡くし、母子二人で何とか彼女が二十歳になるまで頑張り、ようやく結婚しようとしていた。