第187章 安堵と恐怖

一時間後。

夏目初美はもう声がかれて、完全な声を出すことができず、すぐにでも眠りに落ちたいと思っていた。

工藤希耀は彼女の唇が噛み跡だらけで、破れていない部分も乾いてひび割れそうになっているのを見た。

そして彼女の体に最初についていた、自分のものではない痕跡を思い出し、彼女のあの時の無力さと恐怖を思い出した。

心が痛み、人を殺したいという気持ちがさらに強くなった。

しかし彼はそれを抑え、できるだけ音を立てずにベッドから降り、リビングに行き、まず初美に水を飲ませてから、彼女を再び眠らせようと思った。

彼女はさっきあまりにも多くの水分を失い、今日は心身ともに傷ついていた。すぐに水分補給をしないと、夜中には必ず熱を出すだろう。

意外にも遠山陽介がまだいて、物音を聞くとすぐにタバコを消し、彼の方を見た。「耀兄さん、すみません、嫂さんを守れなくて全て私のせいです。嫂さんは今、どうですか?」

希耀は腰に浴衣のタオルを巻いただけで、腹筋と胸筋には初美がついさっきつけた噛み跡と引っ掻き傷があった。

しかし陽介の前では隠す必要はなかった。

彼は堂々と近づいて言った。「初美は大丈夫だよ、眠っている。陽介、これはお前のせいじゃない。計算ずくの行動に対して無防備だったんだ。しかも美咲が出てきたんだから、初美もお前も警戒しなかったのは当然だ。責めるとしたら、私自身を責めるべきだ。私がまだ優しすぎたということだ!」

陽介は唇を引き締めた。「どうして私のせいじゃないんですか。耀兄さんのために本拠地を守り、後顧の憂いをなくすことさえできなかったんです。」

希耀は沈んだ声で言った。「お前のせいじゃないと言っただろう。それに、お前が時間通りに到着していなかったら...私は一部のことには気にしないが、初美は確実に心身に大きなダメージを受けていただろう。だからお前に本当に過ちがあったとしても、功績で相殺されている。自責する必要はない。」

少し間を置いて、目に冷酷さを宿して続けた。「被害者や救助者を責めて、加害者を責めないなんて聞いたことがない。死ぬべきなのは常に加害者だ!」

陽介は急いで言った。「あの二匹の犬はすでに閉じ込めて、耀兄さんの処分を待っています。あの腐った一家も監視下に置いて、逃げられないようにしています。同じく耀兄さんの指示を待っています。」