夏目初美は目測で、お互いの距離はたった十メートルほどだと判断した。特に富水楽が先に声をかけてきたので、見なかったふり、聞こえなかったふりをするわけにもいかなかった。
仕方なく数歩前に進み、礼儀正しく微笑んだ。「富水さん、こんにちは。まさかここでお会いするとは思いませんでした。本当に偶然ですね」
楽も数歩前に進み、無理やり笑顔を作った。「おばあさんが病気で、心臓のバイパス手術を受けるために入院しているんです。だからここ数日は私たちもずっとここにいるんですよ。でも初美さんはなぜ病院に?見たところ元気そうだし、親しい人が病気というわけでもなさそうですね。何か用事があって来たんですか?」
近づいてみると、初美は楽のいつもの手際の良さや意気揚々とした様子が消えていることに気づいた。
もともと美しかった顔立ちは、疲労と老けた表情に取って代わられ、ようやく本当の五十代の中年女性らしく見えるようになっていた。
どうやら彼女はこの期間、あまり良い日々を過ごしていないようだ。校長先生もかなり重い病気なのだろう...そうだ、神戸市の病院まで心臓バイパス手術を受けに来るくらいだから、病状が軽いわけがない。自分は頭が鈍ってしまったようだ。
初美はそう考えながら答えた。「友人のお父さんがここに入院していて、この頃よく彼女の手伝いや食事の差し入れに来ているんです。それで、校長先生の手術はもう終わったんですか?お見舞いに行っても大丈夫でしょうか?」
彼女は校長先生に心から敬意を抱いていた。これまで校長先生が手術で入院していることを知らなかったのはしかたない。
今知った以上、当然お見舞いに行かなければならない。
ある人物については、存在しないものとして扱えばいいだけだ。
楽は初美がまだこんなに気配りができ、彼女に対しても以前と同じように対等に接し、水野雄太の不倫や裏切りによって彼女を恨んだり、皮肉を言ったりして自分の品位を落とすようなことをしないのを見て、
これだけ時間が経っても、まだ残念に思い、後悔していた。
彼女はうなずいた。「もちろん大丈夫ですよ。今すぐでも行けます。おばあさんはあなたに会えばきっと喜びますよ」
初美はもちろん今すぐには行けなかった。病人のお見舞いに手ぶらで行くわけにはいかない。