第238章 退く機会を与えない

太田一鳴の経験は工藤美咲よりもずっと豊かだった。

すぐに彼女をキスで夢中にさせ、足がふらつき、立っていられなくなった美咲は、一鳴の胸に寄りかかって、大きく息を吸い込むしかなかった。

周りの人々はようやく我に返り、善意からはやし立て始めた。「わぁお、美人さん、勇気あるね!」

「イケメン、こんな美人で勇敢な彼女が愛してくれるなんて、前世で銀河系でも救ったの?」

「美女とイケメンのキスシーンって目の保養だね、ドラマより素敵...」

口笛を吹く人もいた。

美咲はようやく恥ずかしさに気づき、一鳴の胸に顔を埋めた。全身が燃えるように熱くなり、地面が割れて自分が入り込めたらと思うほどだった。

しかし心の中では、かつてないほどの喜びと興奮を感じていた。一鳴兄さんが彼女のキスに応えてくれたということは何を意味するのか?

彼が彼女を受け入れたということだ!

一鳴は美咲が恥ずかしさのあまり自分の胸に顔を埋めるのを見て、得意げかつ満足げな気持ちになり、心が溶けそうだった。

しかし彼はまだ理性を失っていなかった。今はまだ喜ぶ時ではないことを知っていた。

彼が本当に美咲の気持ちを確かめ、彼女が心から彼と一緒に歩み続けたいと思っていること、二人が白髪になっても彼女が後悔しないことを確認するまで待たなければならない。

そうなって初めて、彼は本当に喜べるのだ。

そこで彼は片手を空け、自分の上着を取り、抱きしめている美咲をしっかりと包み込んだ。

そして菊川雪乃たちの方を見て、「申し訳ありません、先輩方、用事があるので先に失礼します。また機会があれば集まりましょう」と言った。

次に夏目初美の方を向き、「お姉さん、すみません。私と美咲は先に行かなければならないので、お送りできません。耀兄さんに電話して迎えに来てもらうか、それとも...」

初美は急いで手を振った。「大丈夫よ、車で来たから自分で帰れるわ。先に行ってね、私もすぐ帰るから、心配しないで」

一鳴はこれ以上何も言わず、皆に軽く頭を下げると、美咲を抱きかかえるようにして大股で立ち去った。

残された雪乃の顔は青白くなったり赤くなったりして、この人生で最も恥ずかしい思いをしたと感じていた。

彼女の仲間たちは皆、気まずそうな表情をしていた。