夏目初美は家が佐藤沢暁から大江瑞穂に譲渡されたと聞いて、彼女がなぜ「どうしたらいいかわからない」と言ったのかを理解した。
彼女もかなり驚いていた。
驚きが過ぎ去った後、ふと思い出したのは、あの日、沢暁が瑞穂に安心感を与えるために実際の行動で示すと言っていたこと。
もしかして、これが彼の言っていた実際の行動なのだろうか?
問題は瑞穂の表情を見ると、喜びというよりも、驚きと戸惑いの方が大きいように見えることだった。
初美はしばらく考えてから尋ねた。「瑞穂、佐藤隊長は何て言ったの?ただ不動産権利証を渡しただけじゃないでしょう?他には何も言わなかったの?」
瑞穂は彼女をじっと見た。「不動産権利証だけじゃないわよ。カードも見なかった?そのカードにはかなりのお金が入ってるの、七桁よ。彼の何年分かの全貯金だって。家は彼の両親が残してくれたものなんだって。彼のお父さんは以前、麻薬取締官だったけど、後に...殉職したの」
「彼のお母さんはその悲報を聞いた後、病に伏せって、二年もしないうちに亡くなったわ。だから彼は小さい頃から、お父さんの同僚たちと組織が力を合わせて育ててきたの。小さい頃からの夢は、将来お父さんの仕事を継いで、麻薬に関わる全ての犯罪者を法の裁きにかけ、組織に報いることと、お父さんの仇を討つことだったの」
初美の表情も重くなった。「だから彼の両親のことを聞いたことがなかったのね。あなたも知らないか、あるいは私に言いづらかったのかと思ってたけど、そういうことだったのね。若くして市の隊長になれたのも納得だわ。彼はずっと胸に秘めた思いがあって、誰よりも必死に頑張ってきたんでしょうね」
瑞穂は苦笑いした。「前は彼の体中の傷跡を見て、大変な思いをしてきたんだなって思ってたけど。まさか、もっと大変なことがあったなんて」
少し間を置いて、「彼は言ったわ。彼の仕事の性質上、他の男性が与えられるような安心感を私に与えることはできないし、私が一番必要としている時に、すぐに私の前に現れることもできないって。彼にできる唯一のことは、全財産を私に渡して、少なくとも物質的には私が心配しなくていいようにすること、そして彼が二度と戻ってこないんじゃないかって心配しなくていいようにすることだって」