第298章 罠?

九時過ぎ、夏目初美と大江瑞穂が意図的に笑いながら場を盛り上げる中、工藤美咲はメイクと着替えを終えた。

二人の親友も礼服に着替え、同じく正装を済ませた工藤希耀と遠山陽介と一緒に、美咲を囲むように先に車に乗り込んだ。

その後、それぞれ別の車に分乗し、今日の婚約式の会場へと向かった。

太田一鳴はすでに付添人たちを連れて入口で待っていた。遠くから工藤家の車列が見えると、すぐに駆け寄ってきた。「お兄さん、お姉さん」

そして正装した美咲を見ると、目が見えなくなるほど笑顔になった。「美咲、今日は本当に綺麗だよ!」

さらに小声で付け加えた。「今日は迎えに行けなくてごめん、全部一鳴兄さんが悪いんだ。将来の結婚式では、必ず早くから迎えに行って、ずっと一緒にいるよ。一歩も歩かせないようにするから、いい?」

美咲も真っ白な礼服姿の彼を見て、胸がドキドキした。

顔を赤らめながら小声で言った。「ただの婚約式だから、迎えなんて必要ないのよ。謝らないで。もういいから、ここに立ってないで、みんなが見てるわ。先に上がりましょう」

しかし一鳴はまだ名残惜しそうだった。「一緒に上がりたいな」

「ゴホン!」

希耀と陽介が咳払いをし、二人とも意味ありげな笑みを浮かべて彼を見つめていた。特に希耀の顔には「因果応報だな、お前にもこんな日が来たか」と書いてあるようだった。

一鳴はようやく仕方なく、何度も振り返りながら付添人たちと先に上がっていった。

瑞穂は笑いをこらえながら自分たちの一行に声をかけた。「さあ、私たちも上がりましょう。お客さんがそろそろ到着し始めているはずよ」

婚約式だけであること、そして先月の希耀と初美の世紀の結婚式で工藤家がすでに盛大な宴会を開いたことから、今日の美咲と一鳴の婚約式は必要最小限のゲストだけを招待していた。招待してもしなくてもいい人や、招待なしで来そうな人たちには、あらかじめ断りを入れておいた。

それでも、栄ホテルの最大の宴会場は満席で、神戸市の名士や政界の要人がほとんど揃っていた。

太田家と工藤家の縁組みという盛大な行事は、誰もが簡単に参列できる機会ではなく、まさに千載一遇のチャンスだった。

太田家は事前に宴会場全体を控えめながらも豪華に、美しく装飾していた。

希耀と初美も非常に満足そうだった。太田家は確かに彼らが期待した誠意を示していた。