幸い山口競も甘くはなかった。彼は顔を曇らせ、両手で二人を容赦なくオフィスから押し出し、エレベーターまで押し込んだ。「さようなら、二度と会わないでください!」
そして冷たく唇を歪め、工藤希耀のオフィスに戻ろうとした。
すると夏目初美が来ているのを見て、すぐに喜色満面で大股で近づいた。「奥様、いつお越しになったんですか?社長は今ご機嫌斜めですが、あなたがいらしたのを見れば、きっと喜びますよ。どんな怒りも消えるでしょう」
初美は笑顔で頷いた。「今来たところよ。社長はなぜ機嫌が悪いの?何かあったの?」
競は難色を示した。「実は私もよく分からないんです。それに、あまり話すべきではないかと。奥様、直接社長にお尋ねになってはいかがでしょうか。社長はきっとあなたに話してくれますよ」
初美はそれ以上尋ねるのをやめた。「じゃあ、あなたは忙しいでしょうから。私が中に入って様子を見てくるわ」
そう言って希耀のオフィスに入った。
入るとすぐに、彼が巨大な一面ガラス窓の前に立っているのが見えた。初美は彼の背中しか見えなかったが、それでも彼の全身から発せられる冷たく殺気立った雰囲気を瞬時に感じ取った。
彼女は思わず胸が締め付けられた。一体何があったのか、彼をこんなに怒らせるとは?
初美は少し考えてから、足音を忍ばせて近づき、つま先立ちして希耀の目を手で覆った。
そして故意に声を低くして、「誰だか当ててみて?」と言った。
希耀はまるで氷河が溶けるように、すぐに柔らかくなった。
彼女の手を取って、「わからないな...もしかしてローズ?違うならメアリー?それともキャサリン...痛い痛い、つねらないで。わかったよ、僕のハニーだね。こんなに痛くつねるのは、僕のハニー以外にいないよ」
初美はようやく軽く鼻を鳴らし、彼の腰の柔らかい肉を離した。「もう二度と適当なこと言わないでよ!それとも、適当じゃなくて、本当にそんなにたくさんの女性を囲っているの?」
希耀は干笑いした。「そんなわけないだろう。君一人でも手に負えないのに。仕方ないよ、年を取って体力が落ちたからね。それに僕は養ってもらっている身だから、そんな大胆なことできるわけないじゃないか」