商用車はさらに30分近く走り続け、ようやく人里離れた場所に到着した。厳重な警備が敷かれており、一目見ただけで普通の人が住めるような場所ではないことがわかる住宅地だった。
山道をさらにしばらく走った後、ある家の前で車は停まった。
藤原秘書が先に降り、夏目初美のためにドアを開けた。「工藤夫人、どうぞ」
初美は車内ですでに完全に冷静さを取り戻していた。
今の状況では何を言っても何をしても無駄だと分かっているなら、何もせずに工藤希耀が来るのを静かに待つのが最善だろう。
無駄な抵抗をして何か問題が起きれば、希耀はきっと狂ってしまうだろう。そうなれば小さな問題が大きくなり、取り返しのつかない事態になってしまう。
そこで彼女は素直に車から降りた。
藤原秘書はすぐに彼女を連れて玄関から入り、廊下を通って彫刻が施された木製のドアの前で立ち止まった。「首長、戻りました」
すぐに中から威厳のある声が聞こえた。「入りなさい!」
藤原秘書はドアを開け、初美に「どうぞ」と手振りをした。「工藤夫人、どうぞ」
初美はさきほどの警備員や室内の装飾、そして藤原秘書の「首長」という呼び方から、ある程度の予想がついていた。
怒りを抑えながら言われた通りに部屋に入った。
彫刻が施された大きな木製の机の前には、60歳ほどの威厳ある老人が座っていた。初美は今初めて彼に会ったが、一目で誰だか分かった。
テレビのニュースでときどき見かける人物を、認識できないはずがない。
やはり彼女の予想は間違っていなかった。
しかし、まさか彼だとは本当に思わなかった!
でも考えてみれば、二人の輪郭はまるで同じ型から作られたかのように似ている。知らない人ならともかく、知っている人なら誰でも気づくはずだ。
「君が夏目かね?座りなさい」
初美が考えていると、老人が先に口を開いた。
彼女は我に返ったが、座らずに直接本題に入った。「首長がわざわざ私を連れてくるからには、理由があるはずです。はっきり言ってください。私たち庶民は忙しいので、時間を無駄にする余裕はありません。お話が終わったら、帰らせていただきます」