第303章 なんと慈悲深い父親!

尿毒症?腎臓移植?

夏目初美は遠山陽介の言葉が終わる前に、怒りで目の前が真っ暗になり、今にも大声で罵り始めそうになった。

何度も我慢して、ようやく抑え込み、引き続き小声で陽介に尋ねた。「彼には他に子供はいないの?あんな高い地位と権力を持っていれば、心を決めて腎臓を探せば、適合する人が見つからないはずがないでしょう?どうして希耀に目をつけたの?彼は誰だと思っているの?そして彼の息子は誰なの?」

陽介の顔色も険しくなっていた。「娘が二人いるらしいけど、適合しないんだろう。他の方法も全て試したけど、うまくいかなかったみたいだ。こういうことは地位や権力があっても解決できないんだよ。彼や家族がどれだけ特権を享受していても、生老病死の前では、普通の人と同じさ。みんな平等なんだ」

初美は冷笑した。「権力とお金がどれほど万能でも、健康や命は買えないってことね!だから突然希耀のことを思い出して、あらゆる手段を使って彼に会おうとしたのね。大切な息子の命がかかっているからか。でも彼の大切な息子の命は命で、希耀の命は命じゃないっていうの?」

「希耀が彼の息子と適合するかどうかも分からないのに、仮に検査して本当に適合したとしても、私は絶対に同意しないわ。誰が彼に移植を強制しようとしても、私の死体を踏み越えない限り無理よ……いや、私は希耀に適合検査すら受けさせない。誰が彼を強制しようとしても、私は命がけで戦うわ!」

そう言いながら、以前工藤希耀が言っていたことを思い出した。あの老人は彼に対して一日も父親としての責任を果たしたことはなかったが、他の子供たちにとっては、案外良い父親だったかもしれないと。

そう思うと、さらに腹が立ち、希耀がより可哀想に思えた。

彼は何も悪いことをしていないのに、なぜこんな目に遭わなければならないのか、なぜこんな所謂クソ実父に出会わなければならないのか?

陽介は歯を食いしばった。「俺もだ。誰が耀兄さんを強制しようとしても、まず俺の死体を踏み越えなければならない!耀兄さんを20年も苦しめ、伯母さんはさらに……今になって腎臓が必要だからって、やっと彼のことを思い出したのか。それは腎臓だぞ、他の身の回りの物じゃない。移植したら耀兄さん自身の健康や寿命にも大きな影響が出るんだ」