俺、冷川宴をなんだと思ってやがる

「利田部長!」悠は設計図を机の上にパッと置いた。

艶は怒りを隠しきれず、顔を上げて悠をじっと見つめ、彼女が続けるのを待った。

「利田部長、きちんと説明していただけませんか?」

艶は思わず呆れて笑ってしまった。こんなにも厚かましい盗作を見たのは初めてだった。「説明?一体、何を説明して欲しいの?」

「クライアントが私のサンプルを採用したのに、利田部長は私に知らせるべきではなかったんですか?」

「それに、前回サンプルを提出したとき、どうして理由もなく怒られたんですか?」

「最後に、私のサンプルが採用されたのなら、なぜ私には次の仕事を任せていただけないんですか?その理由を教えてください」

悠は一つ一つ、言葉を選びながら、はっきりと訴えた。

艶は一瞬言葉を失った。まさか盗作犯がこれほど筋の通ったことを言うとは思っていなかった。

彼女はしばらく考え込んだ後、一つ一つ丁寧に答えた。

「ここ数日忙しくて、サンプルが通ったことを知らせるのをうっかり忘れてしまってね」

「あの日も別にあなたに怒ったわけじゃないの。ただ、あなたの原稿が…どこかで見たような気がしただけよ」

彼女の口調には、はっきりとした皮肉が込められていた。

「証拠はありますか?」悠は真剣な表情で尋ねた。「もし利田部長が、私のサンプルが誰かの原稿に似ていると思うなら、ぜひそれを示してください」

艶の腹の中で怒りがどんどん燃え上がってきた。もし美芝が「気にしないで」と言わなければ、彼女は本当に設計図を悠の顔に投げつけていただろう。

「あるんですか、ないんですか?」悠は毅然と問い詰めた。今回は、自分の名誉を必ず守らなければならなかった。

艶は怒りに胸を激しく揺さぶられ、しばらく沈黙した後、ようやく絞り出すように「ない」とだけ言った。

彼女の心の奥底には、悠への極限の嫌悪が深く根付いていた。

彼女はゆっくりと立ち上がり、悠と真っ直ぐに目を合わせて言った。「新しい仕事が欲しいんでしょ?」

いいわ。彼女に新しい仕事を与えましょう。美芝には渡さずにね。今度は悠が誰からパクるのか、じっくり見てやろう。

艶は頭を下げて引き出しから資料を取り出し、悠に投げつけるように渡した。「五日間でサンプルを持ってきなさい」

余計なことは何も言いたくなかった。

悠はためらいながらも、どうしても言わなければならないことがあると感じた。

「利田部長、面接の際に良くない印象を与えてしまったことは、私も自覚しています」

艶は鼻を鳴らし、冷ややかな目で悠を一瞥した。

「でも、私は本当に絵を描くことが好きですし、この仕事も心から愛しています。だから、会社の選択が間違っていなかったことを証明するために、全力で頑張ります」

「利田部長、それでは失礼いたします」

艶は冷ややかな皮肉を込めて言った。「本当に誰かに感謝したいのなら、いとこのお姉さんにきちんと感謝しなさい」

悠は一瞬立ち止まり、静かに「そうします」と答えた。

二度目のチャンスも簡単には訪れなかった。悠は戻るとすぐ、全身全霊で仕事に打ち込んだ。

週末になると、美芝がまた悠を誘いにやって来た。

「悠、今夜みんなが私のために歓迎会を開いてくれるって。あなたもぜひ来てね」

「え?夜は友達と約束があるから、今回は遠慮しようかな。みんなで楽しんでね」

「やだ、悠、絶対来てよ。宴も来るし、あなたたち二人が歓迎してくれたら、私も安心して国内にいられるから」

「…わかったわ。夜に会いましょう」

電話を切った後、悠は泣きたくなる気持ちを抑えながら、鎖を見つめた。

鎖は的確に言った。「悠、私が思うに、あなたが宴と離婚しない限り、美芝は絶対にあなたを放っておかないわよ」

「今夜、もう一度宴と話をしてみようと思うわ」

夜、悠は体にぴったりとフィットする黒のミニドレスに着替えた。

彼女の服はもともと少なく、その多くが美芝のお下がりだった。

淑美は彼女に服を買うことを好まず、また、着飾らせることもなかった。

この唯一のミニドレスは、悠がこっそり買ったもので、宴との新婚旅行に着て行くつもりだった。しかし…彼女はあまりにも天真爛漫すぎた。

歓迎会は帝豪ホテルで行われた。帝豪ホテルは全国で唯一の七つ星ホテルであり、かつての誕生日パーティーもここで開かれていた。

懐かしい場所に戻り、悠の胸中は複雑だった。

十八階の宴会場に着くと、すでに多くの人が集まっていた。ほとんどが美芝の友人で、あの恥ずかしいスキャンダルの目撃者たちだった。

みんなが悠を奇妙な目で見ていた。

「悠、やっと来たのね」

美芝は一歩前に出て、悠の腕をしっかりと掴み、人混みの中へと引き込んだ。

「美芝」と、美芝の親友の一人である白石潔子(しらいし きよこ)が不思議そうに問いかけた。「どうして彼女を招待したの?」

「そうよね、こんな人と絶交しないで、何を待ってるの?」

「彼女もよく来れたわね、ほんとに厚かましいわ」

他の人たちもすぐに同調し始め、ざわざわと不満の声が広がった。

「もういいわ、潔子。みんな、悠のことはもう言わないで。あの時のことは彼女もちゃんと認めたんだから」

美芝は特に親しげに言った。「彼女はすでに宴と離婚し、私たちの幸せを応援することに同意してくれたのよ」

「ふん!」一同は口をとがらせ、不満げな表情を浮かべた。

「宴!」美芝は突然声を弾ませ、悠の手を離すと慌てて入り口へと駆け出した。

全員が一斉に入り口の方を見つめた。

宴は高級な黒いスーツを身にまとい、その広い肩と細い腰、長く伸びた脚が威厳を漂わせていた。身長は二メートル八十もあり、圧倒的な存在感を放っていた。一方、美芝は黒のマーメイドドレスを纏い、その魅力と優雅さで場の視線を一身に集めていた。

二人が並ぶ姿はまさに天が結びつけた理想のカップルそのもので、完璧な調和と輝きを放っていた。

潔子は悠に向かって冷ややかに言った。「見た?あの二人の前じゃ、あなたはまるで醜いアヒルの子みたいよ。少しは自分の立場をわきまえなさい」

宴と美芝は、みんなの祝福の言葉に照れくさそうに笑いながらも、その場の中心として輝いていた。

悠は目の奥が痛くなり、席に戻ってそっと飲み物を口に運んだ。

遠くの賑やかな席は彼女とは無関係だったが、悠はずっとそちらの様子を気にかけていた。

宴はこうした賑やかな場が好きではなく、案の定、しばらくすると後方のVIPルームへと姿を消した。

静かに席を立ち、悠はその場を後にしようとした。

「悠」美芝がタイミングよく現れ、手にグラスを持っていた。「さっき、どこに行ってたの?みんなと一緒に楽しもうよ」

「ちょっと疲れてて…」悠は無理に笑みを浮かべた。「姉さん、宴に会って離婚の話を聞いたら帰るね。今日は本当に、もう疲れちゃって…」

「そう、いいわよ」美芝は手に持っていた飲み物を差し出した。「これ、宴に持っていこうと思ってたの。代わりに届けてくれる?」

「わかったわ」悠はそっと飲み物を手に取り、静かにVIPルームへと向かった。

宴はソファに沈み込むように座り、扉が開く音に眉をひそめながら、不機嫌そうに目を開けた。

目の前の女性は、少し時代遅れのミニドレスをまとい、細い手足をあらわにしていた。腰は一握りほどしかなく、今にも折れてしまいそうなほど華奢だった。

彼女が身をかがめて飲み物を置いたとき、丸みを帯びた美しい曲線があらわになり、その魅力に気づかずにはいられないほどだった。

認めざるを得ない。悠のスタイルは、男たちの視線を惹きつけてやまない魅力があった。

もちろん、宴だけは別だった。彼は冷たく問いかけた。「また何か、企んでいるのか?」

前回このVIPルームで起きた出来事は、誰の記憶からも消え去ることはなかった。

悠の顔は少し赤らんだ。「宴、もう一ヶ月経ったわ。離婚のこと…」

「これを思い出させるために来たのか?」と、宴は皮肉な笑みを浮かべながら問いかけた。

「そうよ」悠は全身が落ち着かず、声も少し震えていた。「少し時間を取ってくれないかしら」

宴は目の前の飲み物を手に取り、ゆっくりと一口含んだ。「そんなに俺と離婚したいのか?だったら最初から一体、俺を何だと思っていたんだ?冷川宴を、なめていたのか?」

悠は歯を食いしばり、震える声で言った。「あの時のことは何度も話したけど、私も薬を盛られていたの…」

「もういいわ。どう言っても信じてもらえないでしょうね」彼女は深いため息をつき、続けた。「ただ、あなたに伝えたいことがあるの…」

その時、VIPルームのドアが再び開き、美芝がゆっくりと入ってきた。

悠は堪えきれず、声を震わせながら言った。「もうここにいたくない。とにかく、早く手続きを済ませて。私は先に帰るわ」