「あの時のことは、やむを得なかったのよ」
書斎から藤堂淑美の声が聞こえてきた。
林悠は外に立ち、ノックしようとした手が宙に止まった。
「ただ彼女がこんなに頑固だとは思わなかったわ。それにしても、あの時もし彼女があなたの娘じゃなかったら、それに彼女が...」
林美芝の声だった。後の言葉は林悠には聞き取れなかった。
「私も宴を手放す気にはなれなかったわ」林美芝はため息をついた。「今は二人が早く離婚して、すべてが正常に戻ることを願うだけよ」
「安心して、何の問題も起きないわ」藤堂淑美は確信に満ちた口調で言った。
書斎は静かになったが、林悠の頭の中はごうごうと鳴り響いていた。
だから彼女の推測は間違っていなかった?
藤堂淑美は本当に林美芝と共謀して、自分を宴のベッドに這わせたのか?