ミルクキャンディー

「ありがとう」夏挽沅は、目を細めて微笑んだ。彼女は君時陵に対して、偏見も、恐怖も抱いていない。まるで、ごく普通の人に接するように。

この花々が咲き乱れる庭で、夏挽沅は不思議な静けさを身にまとっていた。

普段なら時間を一瞬たりとも無駄にしない君時陵が、珍しく庭に座って時を過ごしていた。

以前の夏朝では、今のように多くの娯楽がなかったため、夏挽沅にとっては静かに本を読むことが一日を過ごす方法だった。

彼女が今朝書斎で見つけた『シェイクスピア全集』を持ってくるよう人に頼んだ。

人類の進歩とは、科学技術の進歩だけではない。文学や芸術の発展もまた、その一つだ。元の持ち主の俳優という仕事を引き継ぐと決めたからには、こうした作品に触れておくことには、大いに興味があった。

夏挽沅の手にある本を見て、君時陵の目はさらに深く沈み、何を考えているのか読み取れなかった。

林靖が書類の束を持って駆けつけたとき、いつもはオフィスと会議室の間を行き来している君時陵が、夏挽沅と一緒に庭に座っているのを目にした。

この上なく端正な顔立ちの君時陵は、深く、そして冷徹に。比類なき美貌の夏挽沅は、ゆったりとくつろいで。陽光の下の二人は、まるで天が定めたかのように調和していた。

この仕事熱心な社長秘書は、あまりの驚きに車から降りる際につまずいてしまった。

ずれた眼鏡を直し、手元の書類を整え、几帳面な秘書の姿に戻った。

「旦那様、本日の決裁書類は、すべてこちらに」

林靖が来た時にちらりと見た以外、夏挽沅は林靖が何をしに来たのかまったく気にしていなかった。

「ああ、そこに置いておけ。君は会社に戻り、この後の会議は代わりに仕切れ」君時陵は書類を受け取ると、いまだ本に没頭している夏挽沅に目をやった。

「かしこまりました、旦那様」

若様はずっと夏さんを嫌っていたのに、この二日間は何があったのだろう?独自の雰囲気を持ち、清らかで優れた夏挽沅をちらりと見た。

やはり噂は信じられないな、と林靖は心の中で感慨深く思った。この夏さんは外で噂されているのとはまったく違う。

面白いことになってきた。林靖は表情を変えぬまま、君時陵に一瞥をくれ、次いで夏挽沅に視線を移す。その口角が、まるで狐のように、くい、と上がった。そして、素早く身を翻してヴィラを後にした。

林靖が思い描いた筋書きとは異なり、夏挽沅は読書に夢中で、話す気配はない。君時陵もまた、自ら人に話しかけるような男ではなかった。

こうして二人は、奇妙なほど穏やかな静けさの中、庭で午後いっぱいを過ごした。

君胤を乗せた迎えの車が、玄関の前に現れるまで。

団子ちゃんは、幼稚園の算数のテストで一番になり、先生からご褒美にキャンディーを数個もらった。子供というものは、自分の好きなものを、自分の好きな人にあげたくなるものだ。

ご褒美をもらって車に乗ると、団子ちゃんは家に帰って夏挽沅に算数で一番になったことを伝え、キャンディーをママと分け合おうと思っていた。

車が停まるや否や、団子ちゃんは自分でドアを開けて飛び降りた。ところが、庭に座っている君時陵の姿を見て、ぷくぷくした顔が、途端に肉まんのようにくしゃりと皺になる。

物音を聞いて、夏挽沅は顔を上げ、顔をしかめた宝ちゃんを見て、彼が君時陵を怖がっていることを知った。

宝ちゃんの可哀想な様子に思わず笑みがこぼれ、団子ちゃんに手招きする。「宝ちゃん、お帰りなさい」

君時陵に近づくことへの恐れとママの温かい腕の中で少し迷った後、宝ちゃんは思い切って、短い足でとことこと夏挽沅に向かって走っていった。

団子ちゃんの急いでいる様子を見て、君時陵の目に不快感が閃いた。何か言おうとした時。

団子ちゃんはすでに夏挽沅の腕の中に飛び込み、細い目には夏挽沅への愛着が満ちていた。夏挽沅は優しく宝ちゃんを抱きしめ、少し似た二つの横顔は共に温かい笑顔を浮かべていた。

君時陵の心の中の叱責の言葉は、なぜか口に出せなくなった。

「ママ見て、今日ね、算数で一番だったの。先生がご褒美くれたんだよ」宝ちゃんはそう言って、ホホジロザメのリュックからミルクキャンディーを数個取り出すと、夏挽沅の目の前に差し出した。その大きな瞳には、「褒めて」という言葉が書いてある。

夏挽沅は宝ちゃんの頭を撫でた。「すごいわね!」ミルクキャンディーを一つ手に取って口に入れ、宝ちゃんにも一粒、包み紙を剥いてあげる。甘くて濃厚なミルクの香りが、口いっぱいに広がった。

宝ちゃんは満足そうに夏挽沅の腕の中で身を寄せ、手にはまだ一つキャンディーが残っていた。恐る恐る君時陵を見た。

母親がそばにいるという安心感のおかげか、宝ちゃんはゆっくりと君時陵の前まで歩いて行くと、舌足らずな声で言った。「パパ、これ、あげる」

いつも彼に近づくことを恐れていた実の息子がこのように柔らかく話しかけてくるのを見て、君時陵は珍しく戸惑いを見せた。

君時陵が何も言わないのを見て、勇気を出して近づいた宝ちゃんは失望して頭を垂れ、手を引っ込めようとした。

手の中のミルクキャンディーはすでに取られていた。宝ちゃんは驚いて顔を上げると、君時陵が少し不自然にミルクキャンディーを持っているのを見た。

金色の猿が描かれたミルクキャンディーと、冷たい雰囲気を全身から発している君時陵は本当に合わなかった。

夏挽沅はプッと笑い声を漏らした。君時陵は冷たく見えるが、実は宝ちゃんに優しくしたいのだろう。ただ子供とどう接すればいいのか分からないだけなのだ。