第24章 阮瑩玉
昨日、夏挽沅が撮影をしている時、阮瑩玉は衣装を着替えに行っていて、最後のシーンしか見ていなかった。
今日、彼女は横に立って夏挽沅の撮影を全て見ていた。あの感情の爆発、あの表現の層の深さ、自分では演じられないと認めざるを得なかった。
それが彼女をさらに不安にさせた。苦労して勝ち取った主役の座が、夏挽沅に注目を奪われたらどうしよう。
「いいぞ、夏ちゃん、このキャラクターの把握が非常に的確だ。このまま続けてくれ」
楊監督は最初、挽沅を単なる花瓶だと思っていたが、その花瓶の中に金が詰まっていたことに気づき、大当たりだと感じた。そして彼女への呼び方も「金で役を買った女」から「夏ちゃん」に変わっていた。
「はい、監督」挽沅は楊監督に軽く頷いた。
撮影は終わり、秦塢も挽沅から手を離したが、彼の手には彼女の熱い涙の温もりが残っているようで、その熱が彼の心まで届いていた。
挽沅は役から抜け出し、陳勻の手からソーダを受け取った。
「素晴らしかった！あの涙はどうやって？すごすぎるよ」陳勻の燃え尽きたような心に、今や野草が生い茂るように希望が湧いてきた。
この挽沅は本当に目覚めたようだ。あの涙ながらの姿は、彼の老いた心臓をぎゅっと締め付けた。この演技が放送されたら、みんな目を見張るだろう！
陳勻はすでに心の中で、この撮影が終わったら賞金を持ってどこに休暇に行こうかと想像していた。
「家が破産して、ふと思い出して、感情移入しただけ」
挽沅は前世で実際に国が滅びる痛みを経験したとは言えず、ただ原主の家庭の出来事を借りて言い訳をした。
しかし陳勻はこの言葉を聞いて、むしろ困惑し、心配そうに挽沅を慰めた。「あまり悲しまないで。この撮影をしっかりやれば、これからはきっと良くなるよ」
そう言って立ち去ろうとしたが、しばらくすると戻ってきて、恥ずかしそうに頭をかきながら言った。「あのさ、昼食に何か食べたい？弁当はおいしくないから、他のものを買ってきてあげようか」
「焼きじゃがいもを一杯持ってきてくれる？」挽沅はソーダを一口飲み、喉に不思議な感覚が走った。
「……」陳勻は愕然として、挽沅をしばらく見つめた後、彼女が冗談を言っているわけではないと気づき、ようやく「わかった」と答えた。
これは破産どころか、完全に無一文になったんじゃないか？！
陳勻は心の中でつぶやいた。そうでなければ、どうしてこんなに節約するようになったのか。これは以前、山での撮影中にしょっちゅう満漢全席を要求していた挽沅とは思えない。
しかし、今のこの挽沅は、ずっと親しみやすくなったことは確かだ。
「よし、各部署注意して、照明さん？阮瑩玉の前に少し光を足して」
楊監督が瑩玉を指さすと、カメラマンと照明スタッフがすぐに動いた。
カメラはすでにセットアップされていたが、小道具テントの下で、瑩玉は楊監督の言葉を聞いていないかのように、自分の世界に没頭していた。
「阮瑩玉、何をしている？早く準備しろ、お前のシーンだぞ！」
楊監督の一喝で、瑩玉はようやく混乱した思考から抜け出した。
遠くでソーダを飲みながらも気品に満ちた挽沅を一瞥し、目に憎しみが閃いた。
「申し訳ありません監督、台詞を考えていて、集中しすぎていました。聞こえなくてすみません」
瑩玉は何度も頭を下げた。楊監督は口をとがらせて「いいから、早く準備しろ」と言った。
「お待たせしてすみません」瑩玉は秦塢に向かって微笑み、清純で甘美な笑顔を見せたが、秦塢は何の反応も示さず、ただ軽く頷いただけで、瑩玉との演技の準備を始めた。
清純で無邪気な雰囲気は確かに魅力的だが、昨日の挽沅との演技、あの琉璃のように透き通った生き生きとした瞳、あの微笑み、あの美しい目の表情は、目の前のこの型にはまった清純さと比べると、雲泥の差があった。
瑩玉が演じる田櫻兒は、主人公の林霄と幼なじみだ。
今日の追加撮影は、林霄が外で苦労し、いじめられた後、幼い頃から一緒に育った師妹のことを思い出し、彼らの幼少期の友情を回想して、林霄の田櫻兒への思いを深めるシーンだった。
「師妹！見て、師匠と市場に行った時に、こっそり買った凧だよ」
清々しい少年が、眉を上げて笑いながら、ワイヤーにぶら下がって山頂から飛び降り、手には蝶の形をした凧を持っていた。
「綺麗！ありがとう、師兄！」田櫻兒は喜んで凧を受け取り、竹のように清々しい師兄を情熱的に見つめた。
「カット！」楊監督はモニターに映る瑩玉の笑顔を眉をひそめて見た。「今は少年時代だ！純粋な師兄妹の情だ。その情熱的な目つきは何だ！やり直し！」
————
「綺麗、ありがとう、師兄！」
「カット！無邪気さが足りない！」
「カット！無邪気すぎる、目を見開いて何をしている！」
楊監督はいつも真剣だったが、連続して3回もカットし、今や怒りが湧いていた。
時間が昼に近づいているのを見て、「昼休み、午後に続ける」と言った。
「皆さん、すみません、調子が悪くて」
瑩玉は周囲に頭を下げ、顔には謝罪の色が満ちていたが、手のひらの爪は肉に食い込んでいた。
「無邪気な少女がどんなものか、もっと考えてみろ。どうしてもダメなら、夏挽沅に教えを請うてみろ。昨日の彼女の演技を見てみろ」午前中の撮影で、挽沅のシーンだけが一発OKだったのに対し、瑩玉は3回もNGを出してまだ通らず、楊監督は非常に不満だった。
「はい、監督。必ず皆さんに教えを請います」
瑩玉は歯を食いしばってこの言葉を言い終え、撮影スタッフの視線を避けて自分の休憩室に入った。
休憩室のドアを入るなり、瑩玉は手元のものを床に投げつけた。
「この売女！彼女は何者だ！私が彼女に教えを請う？！」
清純な目には今や憎しみが満ちていた。
夜になってから自分のシーンがあるため、挽沅はホテルで寛いでいた。陳勻が路上の屋台で買った小さなじゃがいもを持って部屋に入ってきた時、挽沅は撮影所の弁当を満足そうに食べていた。
その弁当箱を見なければ、挽沅の食べ方だけを見れば、彼女が山海の珍味を食べているように見えただろう。
陳勻は少し呆れた。まあいいか、明日の昼食には鶏の足を追加しよう。
「来たの？」陳勻が来るのを見て、挽沅は彼の弁当を渡した。
「うん、あなたのじゃがいも」
挽沅はじゃがいもを受け取った。彼女はその日、撮影所に来る途中で外の美食街を通り、車の窓から漂ってきた香ばしい匂いに長い間誘惑されていた。
一つを箸で取り、口に入れると、外側は少し硬く焼かれ、中はふわふわで口の中で溶けた。味は確かに悪くなかったが、少し油っこすぎて、挽沅は二つ食べただけで箸を置いた。
撮影所の弁当が本当においしくなったのか、それとも挽沅の食べ方があまりにも美味しそうに見えたのか、陳勻は今日の弁当がずっとおいしく感じた。
「午後は少し休んでいいよ。夜の撮影が始まる時に知らせるから」
「わかった」
陳勻がゴミを持って出ようとした時、後ろの挽沅が突然声をかけた。
「阮瑩玉という人に注意して。この二日間、何か動きがあるかもしれない」
「わかった」
挽沅が言わなくても、陳勻はあちらに注意を払うつもりだった。
先ほど撮影所で休憩している時、挽沅はあの女性が自分を見る目に、憎しみがほとんど実体化しそうなのを感じていた。