第29章 パパとママと一緒に寝たい
室内の明かりは昼のように明るく、外では雲が空一面に広がっていたが、家の中で食事をしている人々を邪魔することはなかった。
食事を終えると、夏挽沅は小寶ちゃんの手を引きながら、外の激しい風雨を見て言葉を失った。さっきまで天気は晴れていたはずなのに？
「ママ、今日はここで私たちと一緒に寝てよ」小寶ちゃんはテレビのコマーシャルやアニメを見て、パパとママが子供と一緒に寝るシーンを思い出していた。
「........」
挽沅は小寶ちゃんの言葉に一瞬戸惑った。「大雨はすぐに止むでしょう。さっきウルトラマンを見せてくれるって言ってたじゃない？行ってみましょう」
ウルトラマンの話を聞いて、小寶ちゃんは嬉しそうに飛び跳ね、挽沅の手を引いて二階へと走っていった。
君時陵も小寶ちゃんの言葉を聞いていた。不思議なことに、以前は挽沅を見ることさえ嫌だったのに、今息子の言葉を聞いて、心に嫌悪感が湧かなかった。
「王おじさん、客室を一部屋用意してください」
「かしこまりました、若様」
この雨は勢いよく降り続け、かなり長く続いた。空が徐々に暗くなっても、雨は弱まる気配を見せなかった。
「夏お嬢さん、客室の準備ができました。着替えはもうすぐ屋敷に届きます。外は雨が強いので、今夜はここにお泊まりになってはいかがでしょうか」
王おじさんは入口に立ち、部屋の中で小寶ちゃんが挽沅に甘える様子を見て驚いていた。
この屋敷には外部の人が泊まったことがなく、ましてや女性など論外だった。そのため、多くの必需品が用意されておらず、外から取り寄せる必要があった。
「ママ、ここで寝よう。僕のウルトラマン、まだ足が一本完成してないんだ。今夜一緒に完成させてくれる？」
この頃、小寶ちゃんはレゴ作りに夢中で、人の半分ほどの高さのウルトラマンは、あと足が一本で完成するところだった。
「いいわよ」
撮影はほぼ終わっていたし、挽沅には特に商業活動の予定もなかった。どちらにしても君時陵の家なので、どこに泊まっても同じことだった。
「どうでした？」
時陵は階下に座り、その引き締まった横顔に感情の色はなかった。
「夏お嬢さんは承諾されました」
時陵の態度の変化に気づいた使用人たちは、屋敷に女性が泊まるという前代未聞の出来事に、挽沅を未来の女主人として見始めていた。
レゴに集中している母子に大きなフルーツプレートが届けられた。その中には挽沅が二度の人生で一度も食べたことのない果物がたくさんあった。
彼女は目を細めて使用人たちに感謝を述べた。美人の笑顔に一撃を食らった果物を運んできた若い女性は頬を赤らめ、この未来の奥様は本当に気立てが良くて、そして本当に美しいと感じた。
階下では、時陵が会社の幹部たちと南方リゾート開発計画について話し合っていた。
「君時陵、私の弟はどこ？彼はどこに行ったの？」
食事を終え、半日遊んだ挽沅はようやく義理の弟のことを思い出した。今まで夏瑜を見かけておらず、彼がどうしているのか気になり、部屋を出て、階下でパソコンに集中している時陵に声をかけた。
澄んだ鈴のような女性の声がビデオから流れ、それまで熱心に議論していたビデオ会議は一瞬で停止ボタンを押したかのように静まり返った。
？？？？
オンライン会議室にいた人々は、目に浮かぶ驚きを隠しきれなかった。
女性？！しかもボスの家で？！まったく、これは君氏グループが倒産するよりも信じられない出来事だった。
結局、時陵は歩く冷閻王のようなもので、彼らは社長が一生独身を貫くと思っていた。それなのに今、女性が社長の家に現れたのだ。
一瞬のうちに、皆の心は様々な思いで満ちていた。ただ林靖だけは目に理解の色を浮かべ、眼鏡のフレームを直しながら、功績を隠した笑みを浮かべた。
「彼は学校に戻りました。この数日で帰ってくるでしょう」
時陵が会議を切るだろうと思っていたが、彼は何も起こらなかったかのように対応した。
ただ、時陵の無表情な様子を見て、皆は冷や汗をかいた。社長、その冷たい表情でどうやって美女を射止めたのだろうか。
「あ、わかりました」挽沅は振り返って去っていった。
「続けてください」時陵は視線を会議に戻し、皆はすでに顔の表情を調整し、非常にプロフェッショナルで真剣な様子を見せていた。まるで先ほど社長のゴシップを盗み聞きしようとしていたのが彼らではないかのように。
「はい、投資部の報告によると........」
服が届き、挽沅は身支度を整えると、数時間のフライトによる疲れがすっかり消えたように感じた。
「さあ、寝るわよ」
「ママ、パパと一緒に寝ようよ」
小寶ちゃんは半日もおもちゃで遊んだのに、まだパパとママと一緒に寝ることを覚えていたのは本当に驚きだった。
「あなたのパパは他の人と一緒に寝るのが苦手なのよ」挽沅は時陵を言い訳にするしかなかった。
「そんなことないよ。ママ、僕たちの家族は不完全なの？」
小寶ちゃんは目を伏せ、目尻に光るものを浮かべながら言った。その言葉に挽沅は大いに驚いた。彼はまだ小さいのに、こんな言葉をどこで聞いたのだろう。
ちょうどそのとき、アニメの合間に流れる国営テレビの公共広告で、窓の外に月が高く輝き、部屋のベッドでは父と母と子供が安らかに眠っている映像が流れた。
「完全な家族は、赤ちゃんにとって最大の保護です」
.......
挽沅は広告の言葉に言葉を失い、隣の小寶ちゃんも口をとがらせてテレビを見つめ、その目に光る涙が挽沅の心を締め付けた。
「私は賛成だけど、パパが同意しなかったら、私たちは客室で寝ましょうね？」
挽沅は時陵が絶対に同意しないだろうと思い、小寶ちゃんの要求を受け入れた。
「うん！パパを呼んでくる！」小寶ちゃんはようやく晴れやかな表情になり、嬉しそうに階下へ走っていった。挽沅はのんびりとテーブルの上のサクランボを口に運びながら、失敗して戻ってくる小さな子供をどう慰めようか考えていた。
しかし、しばらくすると、とんとんとんと足音が入口から聞こえ、「ママ、パパが同意したよ！」小寶ちゃんの興奮した声が響いた。
「ごほっ、ごほっ」挽沅はむせて咳き込んだ。時陵があんな人なのに同意するなんて？？
「ママ、行こう、寝に行こう」小寶ちゃんは時陵の許可を得て、挽沅の手を引いて主寝室へと走り出した。時陵が先ほど言った客室に泊まるという要求をすっかり忘れていた。
主寝室はとても広く、巨大な床から天井までの窓があり、激しい雨がガラス窓に一筋一筋の跡を残していた。部屋の装飾は非常にシンプルで、黒と灰色の色調が部屋の主人の冷たい性格を表していた。
小寶ちゃんはベッドに飛び乗り、挽沅に手招きした。「ママ、こっちおいで」
挽沅は時陵が何かするとは思わなかった。彼のような人は、最も手の届かない高慢さを持っていた。
以前、軍隊にいたとき、敵の奇襲があれば、テントやベッドなどなく、皆が地面で寝ていた。
その時は、男女関係なく、皆が肩を並べて戦う戦友だった。そのため、挽沅は少し気まずさを感じる以外、特に何も考えていなかった。
「うん、寝ましょう」
挽沅は前に進み、布団をめくって小さな子供を抱きしめ、この数日間聴いていた新しい歌を静かに歌い始めた。しかし30分経っても、小寶ちゃんはまだ大きな目を開いたままだった。
「どうして寝ないの？」挽沅は小寶ちゃんの目に明らかな疲れが見えるのに気づいた。
「パパはまだ来ないの？」小寶ちゃんはパパとママと一緒に寝ることにこだわっていた。
「もうすぐ来るでしょう」挽沅は彼を慰めるしかなかった。
階下では、長い間躊躇していた時陵は、なぜ先ほど涙を浮かべた息子の願いを断れなかったのかわからなかった。おそらく、この子に長い間負い目を感じていて、子供のわずかな希望を打ち砕くことができなかったのだろう。
小寶ちゃんの習慣では、この時間にはもう寝ているはずだった。時陵は本を置き、階上に様子を見に行く準備をした。
ところが、ドアを静かに開けると、ベッドの上から二つの澄んだ目が自分を見つめていた。