「お前はここで仕切っていろ、私は先に国に戻る」
君時陵は椅子から立ち上がると、一言も付け加える時間も残さず、薄曉に会議の進行を任せて、大股で会議室を出た。
時陵は携帯を開くと、屋敷からの不在着信が20件あった。
時陵は冷たい眼差しで電話をかけ直した。「王おじさん、何があったんだ?」
王おじさんは夏挽沅が臨西にいること、そしてニュースで報じられている臨西市の現状について時陵に一通り説明した。
「わかった、すぐに戻る」時陵の声は冷静だったが、携帯を握る手は力が入りすぎて青白くなっていた。
時陵は必死に冷静さを保とうとした。地下から地上に出るまでの30分の間に、時陵は20件の電話をかけた。
地上に出るとすぐに、すでに手配されていたヘリコプターが時陵を最寄りの空港へと運んだ。
「ゼウス、ハリケーン号の準備が整いました」ヘリが着陸するとすぐに、制服を着た高官が時陵に向かって歩み寄った。
「ああ」時陵は短く返事をし、轟音を立てるエンジンの前を通り、猛獣のように待ち構えていたハリケーン号に乗り込んだ。
現在世界最先端の民間用ではない航空機として、ハリケーン号の超音速限界速度は通常14時間かかるフライト時間を3時間に短縮することができた。
そしてその夜、ほとんどの人々が眠りに落ちている中、夜空でハリケーン号は一匹の猛虎のように夜空を引き裂いていった。
あらかじめ各方面と連絡を取っていたハリケーン号はF州から離陸し、直線航路に沿って華国へ向かった。3時間後、ハリケーン号は最短距離と最速のスピードで臨西市に到着した。
華国内では、上層部からの命令を受け、臨西市周辺の軍区から次々とヘリコプターや大型トラックが出動し、四方八方から集まる車両で臨西市への道路は水も漏らさぬほどの混雑状態となっていた。
ハリケーン号が超音速で飛行する際に発生する巨大な衝撃波が深夜の静けさを切り裂いたが、この時人々はその音がどこから来たのかを気にする余裕もなく、あちこちで泣き声が響いていた。
ハリケーン号の到着とともに、数百機のヘリコプターも臨西市上空に集結し、時陵の指示を待っていた。遠くからは陸路や水路を通って駆けつけた人員が大きなライトを照らしながら近づいてきていた。
停電と断水で真っ暗だった街は、これほど多くの灯りに照らされ、一面明るくなっていた。