古川真雪の口調は相変わらず穏やかで、その言葉には、どこか吹っ切れたような、静かな諦めがにじんでいた。
しかし彼女の言葉は針のように、不意に久保清森の胸に刺さり、微かな痛みと、言い表せない不快感をもたらした。
清森はゆっくりと手を伸ばし、優しい動作で真雪の耳元に垂れた長い髪を耳の後ろにかけてやった。「真雪、指輪が気に入らなくなったなら僕が預かっておくよ。僕のことは……」
彼の言葉は突然途切れ、目を伏せて真雪を見つめる瞳に、波紋のような柔らかな笑みが浮かんでいた。
僕のことは……おそらくこれからも君の心の中に残り続けることになるだろうね。
真雪は顔を上げて清森の黒い瞳と視線を合わせた。彼の目に珍しく浮かぶ優しげな笑みを見た瞬間、彼女はしばし呆然とした。
心の中で、清森が言い終えなかった後半の言葉に、何となく期待を抱いていた。そのため彼女は雪のように澄んだ明るい瞳を見開き、清森が再び口を開くのを辛抱強く待っていた。
しかし清森は自分の心の内を彼女に伝えるつもりはないようで、「僕のことは」という言葉の後で口を閉ざしてしまった。
真雪は何故か腹立たしく感じ、冷たく鼻を鳴らすと、「勝手にすれば」とだけ言い残し、高慢な態度で背を向けて立ち去った。
清森は彼女が徐々に遠ざかる姿を見つめ、黒い瞳に人を魅了する輝きが浮かんだ。
……
古川真雪が久保清森から贈られた結婚指輪をチャリティーオークションに寄付し、最終的にまた清森によって落札されたというニュースは、爆弾のようにメディア界の全ての人々を沸き立たせた。
スクープを狙う各ゴシップ誌の記者たちは、連日、叢雲産業グループのビル前に張り込み、清森の口から二人の離婚理由を聞き出そうとしていた。
しかし清森が会社に出入りする度に、大勢のボディーガードに守られており、インタビューどころか、時には記者たちは叢雲産業グループの取締役会長である久保清森という大忙しの人物に会うことさえできなかった。
そのため、記者たちは注目を古川真雪へと向けた。真雪はまるでこのような結果を予測していたかのように、記者たちが自宅の門前に押し寄せる前に、あるトーク番組のインタビューを受け入れていた。
『一嘉の語り部』と呼ばれるこのトーク番組は、国内の有名司会者である佐々木一嘉(ささき かずか)が司会を務めていた。
真雪は清森と結婚した直後、一緒に一嘉のインタビューを受けたことがあったが、今回は彼女一人だった。
真雪と清森の一件が最近大きな話題となっていたため、番組側は視聴率を見越して、ノー編集・完全生放送で放送することを提案し、真雪はこれに異議を唱えなかった。
番組が始まると、一嘉は一人掛けのソファに座り、横のソファに座っている真雪に友好的な笑顔で歓迎の意を表した。「古川さん、『一嘉の語り部』へようこそ。再びあなたにインタビューできることを光栄に思います」
真雪は上品なグレーのスーツワンピースを身にまとい、端正な姿勢でソファに座っていた。一嘉の言葉を聞くと、彼女は軽く口角を上げ、微笑んだ。「ありがとうございます」
「最近、古川さんと久保さんの離婚のニュースが話題になっていましたが、ずっと困惑していました。久保さんとはいつも人々が羨むほど仲の良い夫婦でしたのに、どうして突然離婚することになったのでしょうか?」
真雪は一嘉の疑問に満ちた直接的な質問を聞くと、魅力的な桃花眼を少し曲げ、冗談めかして言った。「結婚して三年も経つのに子どもができない私は、『後継ぎも産めない嫁』だって、陰でずいぶん言われたんです。それなのに、いつまでも久保家の奥様の座に居座ってるなんて、わがままだって。そう言われたら……まあ、確かにそうかもって思って。だから、席を譲ることにしたんです。清森さんが、ちゃんと『跡継ぎを産める女性』を見つけられるように」
彼女が話す間、眉目には機知に富んだ笑みが浮かび、澄んだ瞳は夜空の星のように輝いていた。
天井からの柔らかな光が降り注ぎ、彼女を優しい光の輪で包み込み、比類のない優雅な気品を照らし出していた。