彼女の父親の葬儀は一週間後に行われた。この一週間、古川真雪は忙しく立ち回っていた。忙しさで自分の胸の痛みを紛らわせようとするかのように。
葬儀が終わり、後事を処理し、真雪が家に帰ったときにはすでに夜の8時だった。
その時、久保清森は書斎で仕事をしていた。真雪は自分の部屋に戻ろうとしたが、足を止め、方向を変えて清森の書斎へと向かった。
彼女は礼儀正しく書斎のドアをノックし、中から返事を聞いてから、ドアノブを回して入った。
清森は顔を上げ、黒いワンピースを着た真雪に目を向けた。この一週間で彼女はかなり痩せ、精神的にもかなり疲れているように見えた。
「お父さんのことは片付いた?」
さっきまで彼は真雪を手伝おうと思っていたが、彼女にきっぱりと断られ、早く帰って休むように言われていた。
真雪は軽く頷き、そして歩み寄って彼の机の向かいの椅子に座った。
彼女はゆっくりと視線を上げると、清森は柔らかな灯りに包まれていた。その光が洗練された上品な気質を浮かび上がらせる一方で、冷徹な美貌からは、一片の感情も滲ませていなかった。
「清森」
彼女は乾いた唇を開き、彼の名前を静かに呼んだ。
清森はただ軽く眉を上げ、続けるよう促した。
真雪は目を伏せ、バッグから一枚の書類を取り出し、清森の前に差し出した。「離婚しましょう」
清森の顔に一瞬驚きの色が走った。彼は数秒間躊躇した後、ようやく真雪が差し出した離婚協議書を手に取った。
彼は尋ねた。「もう決めたか?」
真雪は頷き、かすれた声で答えた。「ええ、よく考えたわ。この3年間、迷惑をかけてごめんなさい。もう迷惑はかけたくないの」
彼女は清森がいつも面倒なことを嫌う人だと知っていた。そして彼女は……おそらく彼の人生で最大の厄介事だったのだろう。
清森は離婚協議書を開き、内容を大まかに確認すると、迷いのない手つきでペンを取り、スッと自分の名前を乙欄に書き込んだ。
「このマンションは君の名義に変えるよ。慰謝料は秘書を通して、君の口座に振り込ませる」
離婚協議書には「財産放棄」と明記されていたが――清森は彼女が失った三年間を、せめて形で償いたいと思っていた。
「ありがとう」
彼女の赤い唇の端がゆっくりと上がり、川の水のように澄んだ微笑みを浮かべた。
「真雪、幸せになれよ」
真雪は彼が返してきた離婚協議書を受け取り、優しく言った。「清森、あなたも幸せになって」
3年間の結婚生活がついに終わりを迎えようとしていた。真雪の心には少し名残惜しさがあったが、それ以上に重荷から解放されたような安堵感があった。
おそらく、これらの年月の間、彼女が清森の厄介事だっただけでなく、清森もまた彼女の心から離れない厄介事だったのかもしれない。
目的を達成したと思った真雪は椅子から立ち上がり、もう清森に目もくれず、優雅に歩き出した。
「真雪」
彼女が去ろうとしたとき、突然背後から清森の声が聞こえた。
彼女は足を止めたが、振り返らなかった。
「すまない、この数年間、君に不公平だった」
清森の声は落ち着いていて安定していたが、かすかに謝意が滲んでいた。
過去数年間、真雪に対して最も不公平だったのは、ずっと「計算高くて、腹の底が読めない女」だと誤解していたことかもしれない。だからこそ、ずっと距離を置いてきたのだ。
彼の突然の謝罪に、真雪の唇はゆっくり弧を描いた
不公平?数年間彼女を利用して、確かに不公平だった。でも、もうどうでもいいの……どうせすべては終わったのだから。
「大丈夫よ」彼女は首を振り、そして足を踏み出して書斎を後にした。
真雪が最初に清森と結婚しようとしたとき、彼女の父親は強く反対した。