第026章:清森、もう謝らなくていい

久保清森は古川真雪の言葉を聞いた時、無意識に顔を上げて、向かい側に座って穏やかに微笑む真雪を見つめた。

彼女の表情はあまりにも平静で、まるで彼の料理の腕前を評価しているかのようで、彼が過去に彼女に対して行った不公平や傷つけたことについて話しているようには見えなかった。

記憶の中で、確かにそんな出来事があった……当時彼は出張から帰宅したばかりで、家政婦の田中おばさんから真雪がひどい風邪を引いていると聞いた。

彼が真雪の部屋に様子を見に行った時、真雪はちょうど目を覚ましたところで、彼にお粥を作ってくれないかと頼んだ。

その時、彼は確か承諾しようとしたのだが、夏目宣予のアシスタントから電話がかかってきて、宣予が交通事故に遭い、病院にいると焦った様子で伝えられた。

その後どうしたのだろう?彼は確か真雪に、何か必要なことがあれば田中おばさんに言うように伝え、そして部屋を出て行ったのだった。

「ごめん」

静かなダイニングに、突然低い男性の声が響いた。「ごめん」という言葉が彼の口から発せられると、異常なほど心地よく、また非常に誠実に聞こえた。

彼の突然の謝罪に、真雪は驚いて顔を上げた。

向かい側に座る清森の顔には淡い謝罪の色が浮かび、彼女を見つめる両目は水のように柔らかく、その中にはきらめく波紋が流れていた。

彼の誠実な視線に向き合い、真雪は顔の驚きを隠し、赤い唇の端にゆっくりと泉水のように澄んだ魅惑的な笑みを浮かべた。

「うん」

彼女は軽く返事をし、視線を戻してお粥をすくい、軽く息を吹きかけて口に運んだ。

一方、清森は彼女が先ほど自分を見た目から、彼女の答えを読み取っていた。

彼女の目は彼にこう告げているようだった……清森、もう私はあなたの謝罪を必要としていないわ。

「真雪」

「うん?」

「君が必要としているかどうかに関わらず、僕は君に謝りたい。過去に君を傷つけたことも、君の気持ちを無視してしまったことも、本当にごめん」

彼の声は歌のように優しく、まるでピアニストが奏でる優雅な旋律のように、ゆったりと真雪の耳に届き、そして耳から心へとゆっくりと流れ込んだ。

彼女は心の中で突然湧き上がる不思議な感情を必死に抑え、向かい側の整った顔立ちの男性に軽く微笑みかけた。「離婚の時にすでに謝ったでしょう、もう謝る必要はないわ」