第016章:あなたはもう私と愛を装う必要はない

夕食が終わった後、白川悠芸は古川真雪と久保清森に家に泊まるよう勧めたが、真雪に断られた。

悠芸はこれ以上強要せず、ただ清森に真雪を安全に家まで送り届けるよう言い付けた。

冬の夜は寒気が厳しく、二人が家を出ると、夜風が軽く吹き抜け、その冷たい空気が針のように肌に刺さり、痛みを伴っていた。

真雪は肩をすくめ、足早に歩き始めたが、そのとき清森が彼女の手首を掴んだ。

真雪は眉を少し上げ、不思議そうに顔を上げて清森を見た。

朧げな月明かりが彼の漆黒の瞳に飛び込み、彼の目を特別に明るく照らし、まるで細かな光が中で輝いているかのようだった。

彼の眉間には普段の冷淡さがなく、代わりに真雪にとって馴染みのない優しさがあった。

清森は自分のコートを脱ぎ、優しい動きで真雪の肩にかけた。「寒くなってきたね」

肩に突然加わった軽い重みと、コートから伝わる温もりに、真雪は驚いて目を見開いた。

「行こう」言葉と共に、清森はいつものように手を伸ばして真雪の冷たい手を取り、歩き続けた。

真雪は清森の温かい大きな手に自分の小さな手を包まれるままにしていた。彼女は目を伏せ、月明かりで長く伸びた地面の影を見つめながら、静かに口を開いた。「清森」

「ん?」

「私たちはもう離婚したのよ。わざわざ私に愛情を装う必要はないわ」

言葉が落ちると、彼女は清森が彼女の手を握る力が少し強くなったのを感じた。

清森は真雪の言葉に答えず、短い沈黙の後、話題を変えた。「今夜は雨が降るらしい。早く帰らないと」

真雪は清森が自分の言葉を受け流したことに気づいたが、二人がすでに離婚しているのに、なぜ彼が人前で仲睦まじい様子を装うのか理解できなかった。

車に着くと、清森は紳士的に真雪のために助手席のドアを開け、彼女が乗り込んだ後でドアを閉め、車の反対側を回って運転席に乗り込んだ。

久保家から真雪の家までは30分ほどかかる。車内の雰囲気が気まずい沈黙に陥るのを防ぐため、真雪は清森にラジオをつけるよう提案した。

「最近、叢雲産業グループの会長である久保清森と妻の古川真雪の離婚のニュースがメディア界で大きな話題となっていますが、二人は離婚の理由を明かしていません。

今日、真雪は『一嘉の語り部』というトーク番組に出演し、これは二人の離婚後、彼女が初めてメディアの前に姿を現したものです。

番組内で彼女は、自分から離婚を切り出したことを認め、その理由が結婚3年経っても子供ができないことで、一部のネットユーザーから「卵を産まない雌鶏」と揶揄され、「自分勝手に久保家の奥様の座を占領している」と批判されたからだと明かしました…」

エンターテイメント番組で、男性アナウンサーが感情を込めて真雪と清森のゴシップについて語っていた。

真雪は視線を窓の外に向け、ラジオから流れる半分真実で半分嘘のニュースに耳を傾けていた。

ゴロゴロ。

車が道の半ばに差し掛かったとき、夜空が明るい白い光で裂かれ、耳をつんざくような雷鳴が突然響いた。

雨粒が漆黒の夜空から降り注ぎ、パタパタとガラスの窓を叩いた。

一枚のドアを隔てていても、窓の外を吹き抜ける冷たい風は、はっきりと耳に届き、どこか荒々しさを感じさせた。

先ほど清森が言っていた雨が、ついに降り始めたのだ。

道中、二人は言葉を交わさなかった。車が真雪の住むマンションの地下駐車場に到着するまで。

真雪は肩にかけていたコートを脱ぎ、運転席に座る清森に手渡した。「送ってくれてありがとう」