第058章：あなたのナイトテーブルに睡眠薬が置いてある

「ごめんなさい。」

彼の謝罪の態度は非常に誠実だったが、古川真雪は動じなかった。彼女は表情を変えずに久保清森を一瞥し、答えた。「謝る必要はないわ。私たちはもう離婚したの。今の関係はとても良いわ、私たちはまだ良い友達よ。」

彼女は再び彼を遠ざけた。

清森は仕方なく口元を引きつらせ、その唇の笑みには苦さが隠せなかった。

真雪は身をかがめてブルースを抱き上げ、優しい口調で腕の中の大人しい小さな子に言った。「ブルース、帰りましょう。」

「私とブルースは先に帰るわ。散歩に付き合ってくれてありがとう、さようなら。」

真雪は清森と良い友達でいることも、彼と家族のような関係でいることも受け入れられるが、もう彼の恋人になる勇気はないだろう。

だから清森が二人の関係を親密にしようとする度に、彼女の脳内に残るわずかな理性が本能的に抵抗し、彼を遠ざけてしまうのだった。

……

クリスマスイブの朝、中島黙が真雪を迎えに来て、一緒に霧島町へ向かった。

二人はまずブルースを連れて綾部久辰の家を訪れ、真雪が戻ってくるまでの二日間、ブルースの世話を頼んだ。

久辰は二人がどこでクリスマスを過ごすのか尋ねようとしたが、二人はまったく教える気配がなかったので、彼は清森に小言を言おうという考えを諦め、真雪にブルースをしっかり世話すると約束した。

二人は久辰の家を出た後、直接車で霧島町へ向かった。

霧島町で有名なのは老生横丁の他に、長楽川という名の川もあった。

祝日になると、多くの人々が夜に川辺を訪れ、願い事を川灯りに書いて、それを川に流すのだった。

黙の車は長楽川を通り過ぎ、川から5分ほどの距離にあるホテルの前に停まった。

「師匠は私たちが来ることを知っていて、奥様に昼食の準備をしてもらったそうです。」

真雪は手首を上げて腕時計の時間を確認し、うなずいた。「じゃあ、荷物を置いたら師匠の家に行きましょう。」

「はい、わかりました。」

黙は事前に二つのデラックスルームを予約していた。二人の部屋は向かい合わせで、とても近かった。

彼は部屋に入って荷物を置き、教授に電話をかけて彼と真雪がまもなく訪問することを伝えた後、向かいのドアをノックした。