第292.293章：その姿

古川真雪は久保清森の浴室で身支度を整えたが、着替えの衣類がなかったため、仕方なく清森の浴衣を着ることになった。

彼女が清森の部屋から出てきたとき、清森はすでに別の浴室で身支度を済ませ、キッチンで朝食の準備をしていた。

サイズの合わない浴衣を着てキッチンに入ってきた真雪を見て、清森は薄い唇を微かに上げ、「おはよう、真雪」と言った。

笑みを浮かべたその端正な顔を見つめ、真雪は何故か戸惑いを感じた。彼女はドアの方向を指さし、「先に帰るわ」と言った。

「朝食の準備ができてるよ。一緒に食べてから帰ろう」

真雪は急いで首を振り、彼の好意を断った。「いいの」

そう言いながら、彼の家から逃げ出そうと足早に歩き出した。

彼女が断固として拒否する態度を見て、清森は手に持っていた盆を置き、キッチンから大股で出て真雪を追いかけた。

真雪がドアノブに手をかけた瞬間、追いついてきた清森に不意に腕を掴まれた。

すでに神経が張り詰めていた彼女は突然掴まれて、思わず目を見開き、慌てて振り返って笑顔の清森を見た。

清森がさらに数歩近づいてきて、真雪は彼とドアの間に挟まれ、顔には緊張と警戒の色が浮かんでいた。

清森は優しい動きで手を伸ばし、彼女の耳元の長い髪をさらりと整え、少し頭を下げて気遣うように真雪が着ている浴衣の腰の緩んだ結び目を結び直した。

結び終えると、彼は穏やかな目を上げ、真雪を見つめる�眼には水のような柔らかさが漂っていた。彼は薄い唇を開き、非常に優しい口調で言った。「送っていくよ」

「いいの、自分で帰れるから」

しかし清森は彼女の拒否を無視し、彼女の手を取ってドアを開け、彼女を連れて帰ろうとした。

「その姿は魅力的すぎるから、誰かに悪い考えを持たれるといけない」

真雪：「……！」

彼女が最も警戒すべき悪い考えを持つ奴は、自分の手を握っている彼なのではないだろうか。

「あの……」

二人がエレベーターに乗り込むと、真雪は顔を曇らせながら赤い唇を噛み、何か言いたげな様子だった。

清森は眉尻を少し上げ、エレベーターのドアには彼の凛々しい姿と、彼女に向き合う時に無意識に浮かべる甘やかすような表情が映っていた。

「昨夜、私たち二人とも酔ってたわ。だから……あれは失敗だったのよね？」