「今帰ってきたの?」
「うん」古川真雪は頷きながら、ハンドバッグから黒いペンを取り出した。「ほら、陽子があなたに渡してって。智子が言ってたわ、このペンをとても気に入ってるから、もしいらないなら彼にあげてほしいって」
久保清森は真雪から渡されたペンを受け取り、親指の腹でペンに刻まれたXYSの部分をそっと撫でた。
彼は子供っぽく言った。「あの小僧に伝えておいてくれ。ペンが欲しいなら、自分で嫁さんを見つけて頼むようにってね」
そう言いながら、突然二歩前に進み、真雪との距離を縮めた。
彼は頭を下げ、真雪の顔に近づき、唇の端に優雅な笑みを浮かべた。「真雪、どう思う?」
話している間、温かい吐息がすべて真雪の白い頬に降りかかった。
彼女の頬は突然薄紅色に染まったが、平静を装って目を白黒させ、不機嫌そうに返した。「あなたの甥も私の甥もないでしょ?自分で言ってあげなさいよ」
言い終わるとすぐに、足早に逃げるように自分の部屋に戻ろうとした。
彼女がドアを開けた瞬間、背後からのんびりとした声が聞こえてきた。「僕たちの甥だよ、僕たち」
彼は意図的に「僕たち」を強調し、明らかに真雪が二人の関係を疎遠にすることを好まなかった。
真雪の足取りが一瞬止まり、振り返ることなく部屋に入り、ドアをバタンと閉めた。
清森は廊下に立ち、彼女の閉じたドアをじっと見つめながら、手の中でペンを弄んでいた。
……
旧正月の三日目、清森は約束通り真雪を家に送った。途中、白川悠芸と久保お婆さんが何度も引き留めようとしたが、彼女はすべて丁寧に断った。
真雪を家に送る前に、清森は彼女をレストランに連れて行き、改装の進捗状況を確認した。
これは改装が始まって以来、真雪が初めて見に来たことだった。進捗は彼女の想像以上に早かった。
レストラン内にはまだ暖房がなかったため、二人は中を一周した後、急いで出た。
清森は真雪を寂庵レジデンスまで送り、車が地下駐車場に停まると、二人は車から降りた。
彼はトランクを開けて真雪のスーツケースを取り出し、同時にトランクに置いてあったエルメスのロゴが入った袋も取り出した。
真雪はその場で彼を待ちながら、彼がスーツケースを押し、もう一方の手に袋を持っているのを見て、眉を少し上げた。
「ほら、新年のプレゼント」清森は袋を真雪の前に差し出した。