昼食まではまだ数時間あり、二人はバーカウンターでゆったりと一杯やっていた。
中島黙はイカの天ぷらを箸で挟み、ソースをつけ、口に運ぼうとした時、ふと横を向いて焼酎を一口飲んでいる古川真雪を見た。「そういえば、夏目宣予には会ったのか?」
真雪はグラスを置き、軽く頷いた。「会ったわ。前回あなたから電話をもらった後、翌日に会いに行ったの。」
「どうだった?」
「匿名の人のことは聞かなかったわ。いつものように彼女とちょっと言い合いになっただけ。まったく、宣予のあの女、本当に好きになれないわ!」
彼女は宣予に対する嫌悪感を全く隠さない表情を見せ、黙は思わず笑ってしまった。
彼は箸で挟んでいたイカの天ぷらを真雪の口に入れた。「嫌いなら、もう彼女の話はやめよう。」
真雪はイカを噛みながら、強く頷いた。
「そういえば、宣予には血のつながりのない兄がいるらしい。」
真雪はグラスの焼酎を一気に飲み干し、カウンターにグラスを「パン」と音を立てて置いた。
黙の言葉を聞いて、彼女は眉を少し上げ、黒い瞳に薄い疑惑の色が浮かんだ。「そう?聞いたことないわね。」
黙はポケットから携帯を取り出し、メールボックスからあるメールを見つけ、開いて真雪に見せた。
真雪は目を落として画面に表示された写真を見つめた。写真の男性は無表情で、眉目には濃厚な殺気が漂っており、思わず恐怖を感じさせるものだった。
「彼女の継父は5年前に肝臓がんで亡くなり、その後宣予と母親は夏目家を出て、2年後に宣予は有名になり始めた。
彼女の兄は夏目維順といって、前科が多く、現在行方不明だ。」
真雪は写真の維順をじっと見つめながら考え込んでいた。宣予と知り合って長いが、彼女に兄がいるなんて聞いたことがなかった。まあ、前科のある兄がいることは自慢できることではないから、触れなかったのだろう。
彼女は視線を戻し、口をとがらせた。「彼、暴力団でもやってたの?なんであんなに人に数千万も借りがあるような恐ろしい顔してるの?」
「よく当たったね。彼は暴力団のために薬物と銃器の密輸をして逮捕されたことがある。」
「なるほど、だから宣予はあんなに腹黒いのね。育った環境が関係してるんでしょうね。」