彼女は何気なく久保清森がダイニングから出てくる姿を一瞥し、再び視線をテレビに戻した。
最後に時代劇に切り替えると、彼女はようやくリモコンを置いた。
清森は彼女の隣に座り、長い脚を伸ばし、ソファの背もたれに寄りかかってリラックスした姿勢で、足をコーヒーテーブルの上に乗せた。
「清森」
「ん?」
清森の頬には柔らかな笑みが隠れていて、彼は少し顔を傾けて隣にいる古川真雪の横顔を見た。
「あなたが大学に通っていた頃、私はたくさん手紙を書いたけど、一度も返事をもらえなかったわね」
言葉が落ちると、彼女は顔を向け、清森の深い夜空のような瞳と目が合った。
「うん、覚えてるよ。ある時期、手紙を書くのが流行ってたよね。君はたくさん書いてくれた。その後、メールが流行り始めたけど、君はまだ手紙を送り続けてくれてた」
真雪はうなずき、少し眉を上げて、不満げな口調で尋ねた。「そうよ。だから、なぜ一通も返事をくれなかったの?」
この質問は予想外で、清森は何と答えればいいのか分からず、不器用に話題を変えた。
「あ、このドラマの主役は僕らの会社の俳優だよ」
真雪は彼が意図的に話題を変えようとしていることを見抜いていた。彼女は強引に清森に逃げ道を与えなかった。
彼女は清森の方に少し寄り、両手で優しく彼の顔を掴み、彼が自分と向き合わざるを得ないようにした。
彼女は目を細め、目尻から威嚇の光を放った。「素直に答えれば寛大に、抵抗すれば厳しく対応するわよ」
清森の頬は彼女の両手に包まれ、彼女が「正直に答えないなら最後まで諦めない」という構えを見せているのを見て、
清森は降参し、正直に白状した。「返事は書いたよ」
「嘘ね、私は一度も受け取ってないわ」
「ただ送らなかっただけだよ」
真雪は彼の頬から手を離し、疑わしげに彼を見つめた。「じゃあ、どこにあるの?」
「あ、この主役、演技が上手いね。上野社長に彼を推薦しないとな」
頬が自由になるとすぐに、清森は再び視線を前方のテレビに向け、再び真雪の質問から逃げた。
真雪はリモコンを取り、テレビの電源を切った。
瞬時に、先ほどまで賑やかだったテレビ画面は真っ暗で静かになった。
「そういえば、カップケーキがまだ冷蔵庫にあるけど、食べる?」
「食べないわ」
「じゃあ、僕が食べるよ」