久保清森はあまり気にしていなかった。彼は人差し指で古川真雪の繊細な顎を持ち上げ、薄い唇に不良のような笑みを浮かべた。
「牡丹の花の下で死んでも、幽霊になっても風流だ。ましてや虚無のイメージなんて、なおさらだろう」
言葉が落ちると、彼は容赦なく身を屈め、その魅惑的な薄い唇で、真雪の柔らかな赤い唇を強引に奪った。
彼女の蜜のように甘い唇は、まるで罪を犯すような誘惑に満ちた罌粟のようで、清森はますます自制心を失っていった。
真雪は両脚の横に垂らしていた手で、ゆっくりと清森の腰に腕を回した。
エレベーターは止まることなく下降し続け、フロア表示が「2」に変わった時、清森はようやく頬を赤らめた真雪から名残惜しそうに唇を離した。
彼は唇に反抗的な笑みを浮かべ、低い声で誘惑するように言った。「オフィスの休憩室で少し休んでいかないか?」
真雪は彼のいう「休憩」が何を意味するのか分からないはずがなかった。彼女は可愛らしく清森を睨み、軽く彼を押しのけた。
次の瞬間、エレベーターは1階のロビーに到着し、ドアがゆっくりと開いた。
彼女は素早く足を踏み出してエレベーターを出た。このまま清森が衝動的に自分を休憩室に連れ戻すのを防ぐためだった。
彼女の逃げるような仕草に清森は思わず笑みを漏らした。彼は唇の端を少し曲げ、落ち着いた足取りでエレベーターを出ると、少し足早に前を歩く真雪に追いついた。
彼はエレベーターの中で真雪に見せた不真面目な態度を引き締め、眉目に水のような優しさを漂わせながら、横を歩く真雪に目を向けて尋ねた。「今日は何か予定ある?」
「久辰と約束してゴルフに行くの」
「うん、楽しんでおいで」
行き交う社員たちは二人が一緒に歩いているのを見ると、次々と腰を曲げて丁寧に挨拶をした。
二人が出口に近づいたとき、真雪は意地悪そうな笑みを浮かべて言った。「彼、若い男の子を連れてくるらしいわ」
「そうなのか?」
「うん、だから社長、私も若いイケメンを囲ってもいい?」
運転手の車はすでに入口で待機していた。二人は外に出て車の前で立ち止まると、清森は手を伸ばして優しく真雪の頭を撫で、愛情たっぷりの声で尋ねた。「俺の努力が足りなくて、君を満足させられていないのかな?」