丁野遥の透き通るような声に、ビリヤード場の二階にいた男性たちが一斉に彼女の方を見た。
鈴木瑠璃は泣きたい気持ちだった。「……」
お姉ちゃん、もう少し小さな声で言えないの?
今日このビリヤード場に来ている人のほとんどは男性で、瑠璃と遥の二人だけが女性だった。それだけでも目立つのに、今や完全に注目の的になってしまった。
瑠璃はキューを握りしめ、陸田子墨の視線を無視するように努めながら、遥から渡されたタピオカミルクティーを受け取った。「私はこれを飲むわ」
そのとき、遥は人混みの中の子墨に気づいた。
タピオカを一粒吸い込みながら、彼女は瑠璃の腕を軽く突いて、興奮した様子で声を潜めて言った。「瑠璃、あれ陸田子墨じゃない!」
瑠璃は力なく答えた。「見たわよ……」
実は、あのお金持ちのグループは遥も知っていたが、子墨が一番イケメンで一番目立つ存在だった。彼女の憧れの人だったので、他の人は自動的に視界から消えていた。
遥は顔を両手で覆った。「きゃあ、なんて偶然!私たちが憧れの人と同じビリヤード場にいるなんて!」
女友達同士でイケメンについて話すのはよくあることで、もし子墨の正体を知らなければ、瑠璃も一緒になって胸をときめかせていたかもしれない。
でも今は……ふん……
瑠璃はあの金持ちグループが隣のテーブルを選んだのを見て、もう続ける気が失せた。そこで遥の肩を軽く突いた。「もう1時間経ったわ。帰りましょう」
「なんで急いで帰るの?」この瞬間、ある花好き女子の魂はすでに奪われていた。彼女は手を振って言った。「私たち3時間分払ったのよ。もう少し遊びましょうよ!」
瑠璃は心を痛めた。「あなたって本当に色に目がくらむ奴ね」
憧れの人が来てからというもの、遥はもうビリヤードに集中できなくなっていた。頬杖をついて、最高の観賞ポジションを見つけていた。
一瞬の放心状態の後、瑠璃は徐々に冷静さを取り戻し、心を無にしてビリヤードを続けた。
ちょっとした勘違いがあったからって、どうだというの?
子墨の性格なら、きっと口外することもないし、気にも留めないだろう。
お互い知らない仲なのだから、見なかったことにすればいいのだ!