第54章 わざわざこんな「低い・小さい・醜い」を選ぶなんて

鈴木瑠璃が物語の回想に浸っていると、突然袖を軽く引かれた。

隣にいた丁野遥が言いかけては止め、「瑠璃、やっぱり行かないほうがいいんじゃない?あなた、乗馬そんなに得意じゃないし、ここでおしゃべりしていた方がいいわよ!」

陸田花子が設定した競技なら、陸田謹言と楚田汐はきっといるはず。

瑠璃が二人を見たらまた悲しむに違いない……

赤い乗馬服を着た令嬢が目を向けると、群衆の中の鈴木瑠璃を見つけ、数秒間その美しさに見とれた後、こちらに歩み寄ってきた。

「鈴木さん、来ないかと思ったわ。せっかく乗馬服を着ているんだから、一緒に行きましょうよ!」そう言うと、女性は断られるのを恐れてか、直接手を伸ばして彼女を引っ張った。「行きましょう、行きましょう!」

瑠璃は静かに自分の手を引き抜き、隣で不安そうに首を振る遥を一瞥し、さらに周囲の見物を楽しみにしている金持ちの子弟たちを見回してから、軽く微笑んだ。「じゃあ、参加するわ」

「瑠璃……」遥は何故か不安を感じていた。

赤い服の令嬢は内心で嘲笑いながら、さりげなく言った。「丁野お嬢様も早く着替えてきてくださいね!競技に勝てば、ご褒美がありますよ!」

馬場に入ると、すでに一団が馬を選んでいた。

瑠璃は手を上げて日差しを遮り、ちょうど謹言と汐が黒い駿馬の前に立っているのを見た。二人は同じ色系統の乗馬服を着ており、まるでペアルックのように見えた。

彼女の目が良いわけではなく、二人があまりにも目立っていて、もう少しで公衆の面前で抱き合いそうなほどだった。

遥は木の枝から葉っぱを怒りながらむしり取った。「あんな格好して誰に見せてるのよ!」

離婚したばかりなのに愛人を連れて遊びに来るなんて、謹言はあまりにも薄情すぎる!

「瑠璃、落ち込まないで……」遥が慰めようとした矢先、瑠璃が目を輝かせてある方向に歩いていくのを見た。

いつの間にか、あの優雅な白衣の少年が小さな栗毛の馬を引いてやってきていた。

瑠璃は期待して近づいたが、突然違和感を覚えた……

この馬は気迫があり、四肢は長くて力強く、鼻から息を吐いて、元気いっぱいだ。

ただ、この見た目が……なんだかラバに似ているような?

多くの人が密かに瑠璃の様子を見ていたが、彼女が選んだ馬を見て、何人かはすでに笑いを抑えられなかった。